昭和20年代の歌
私は「エフエムひこね」というコミュニティーFM局から放送するラジオ番組を制作していて、そのひとつにMy Favorite Things, My Favorite Songsという音楽番組がある。その番組で2週間ほど前から昭和時代の歌謡史を特集していて、さしあたり昭和20年代の曲を放送した。その中で取り上げたのは「りんごの歌」や「青い山脈」などの定番の曲に加えて「長崎の鐘」、「東京ブギウギ」「アルプスの牧場」「高原列車は行く」などであるが、その選曲の過程で改めて痛感したことがある。
それは、この時代の歌謡曲にはラブソングがほとんどないということだ。何をラブソングと呼ぶかという問題もあるが、特に1人称で自分の恋心を歌うというラブソングは皆無だった。目立ったのは「星の流れに」とか「岸壁の母」などの戦争の傷跡を歌った歌とか、「アルプスの牧場」「夏の思い出」のような牧歌的な明るい曲である。これは以前からうすうすは感じてはいたのだが、今回改めて痛感させられたのである。昭和30年代、40年代に青春時代を送って、歌謡曲といえばラブソングというイメージを持っていた私にはピンとこない。
ラブソングがないのは、なぜだろうか。戦前からの道徳的な縛りが残っていて、ラブソングを歌い、聞くのは「はしたない」「恥ずかしい」ことだという感覚があったのかもしれないとも思う。そして「アルプスの牧場」などの高原ものが流行ったのは、あか抜けた明るい西欧世界への憧れだったのかもしれない。特に永世中立を宣言していたスイスは「戦争放棄」した日本の手本とされ、「日本は東洋のスイスになるんだ」などという人もあった。今、そんなことを言う人はいなくなり、まさに「歌は世につれ、世は歌につれ」だと実感したのだった。
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