2023/07/31

               7月の記事


二羽のカラス      …  電柱の上にラブラブの二羽のカラスがいた

あさきゆめみし     …  人生は浅い夢のように流れていく

ジンと夢に酔うて    …  私の願望が夢になり、私はその夢に酔うた

クラスター爆弾     …  非人道的なクラスター爆弾に反対する

アメリカへの愛憎    …  アメリカは偉大な国で、日本の恩人なのに

ウソ番組        …  科学的に誤った内容の番組が放送された

偽画像と偽動画(1)  …  フェイク画像がいとも簡単に作れる時代になった

偽画像と偽動画(2)  …  フェイクを見破る技術がフェイクを進化させる

中性化社会       …  男は男らしく、女は女らしくありたい

近江天保一揆の実像(1)…  これまで語られてきた近江天保一揆の概要

近江天保一揆に実像(2)…  これまで語られてきたことは本当だろうか

裁判員制度反対(1)  …  「怒れる12人の男たち」は陪審制度の危険性を示す

裁判員制度反対(2)  …  素人が証拠から客観的に犯罪事実を認定するのは無理だ

裁判員制度反対(3)  …  素人が公平に、情状を酌量して刑を決めるのは無理だ

裁判は復讐ではない   …  裁判では被害者遺族の感情を斟酌すべきではない

子どもを守るために   …  子どもは社会が守らなければならない

母のこと(1)     …  母はダシジャコのかじって私を生んでくれた

母のこと(2)     …  私の求めに応じて、母は手記を書いてくれた

母のこと(3)     …  たった1回だけ、私は母に叱られたことがある

光る大空        …  今年は猛暑の夏、空が光っている

セミたちの夏      …  私の家はセミの大合唱に包まれている

はじめてのおつかい   …  私は「はじめてのおつかい」が大好きだ

子どもを守るために(2)…  子どもを守るための大胆な提案

給与制限法を作ろう   …  最低賃金だけでなく最高賃金も決めよう

母のこと(4)     …  私は1回だけ母を泣かしたことがある

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              光る大空


 梅雨明け宣言からおよそ1週間、連日晴天で、猛暑日が続いている。「梅雨明け10日」ということばもあるように、この時期は最も天気が安定する時期なのだ。とはいえ、今年の夏は例年になく暑いように感じる。今から約30年前、1994年の夏も猛烈に暑く、その夏の暑さについてはいくつかの文章を書いたのを覚えているが、今年もそれに劣らぬくらい暑いように感じる。

 朝5時過ぎ、セミの大合唱に誘われて外に出てみると、朝日が家々の壁を水平方向から照らしており、頭上には青空が広がっている。青空とは言っても秋のように深い青色の空ではなく、空全体に白っぽい色の明るい光が満ちていて、空全体が光っているという感じだ。その空を短い尾を引き、太陽光をまばゆく反射させながらジェット機が飛んで行く。そして私が見上げる空の低いところを白鷺が悠然と飛んで行き、たくさんのスズメは電柱から電柱へ、屋根から屋根へと飛び交っている。

 やがて、太陽はぐんぐん高度を増し、気温はうなぎ登りに上昇する。そして昼前になると、セミはピタッと鳴き止み、我が家の庭のアジサイやツワブキはぐったりとしおれてしまう。最初はこのまま枯れてしまうのではないかと気を揉んだが、最近になって、夕方、直射日光が当たらなくなれば回復することを知った。

 私の住む彦根は東に鈴鹿山脈、西にはびわ湖があって、その向こうは比良山地になっている。昼過ぎに頭上を見上げると雲一つない青空だが、鈴鹿山脈や比良山地のあたりには背丈の高い積乱雲が林立している。まるで真っ白い衣装の巨人が何人も並んで立っているかのようだ。

 「光る海、光る大空、光る大地」という歌があったが、文字通り、湖(うみ)も、大空も、大地も光る夏だ。

二羽のカラス   あさきゆめみし    ジンと夢に酔うて   クラスター爆弾 

アメリカへの愛憎   ウソ番組   偽画像と偽動画(1)  偽画像と偽動画(2)

中性化社会    近江天保一揆の実像(1)    近江天保一揆の実像(2)

裁判員制度反対(1)  裁判員制度反対(2)  裁判員制度反対(3)  

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母のこと(3)       光る大空    セミたちの夏    はじめてのおつかい 

子どもを守るために(2)      給与制限法を作ろう   母のこと(4)    

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                           セミたちの夏


 連日猛暑日が続き、我が家はセミの大合唱に包まれている。朝6時前、朝日が家々の壁を照らし始める頃、それは不意に始まる。まず一匹が鳴き始めると、それを待ちかねていたかのように、あちこちで一斉に鳴き始めるのだ。羽根もお腹も振るわせて全身で鳴いているセミの姿には見る者を圧倒するような迫力がある。

 耳を聾するようなということばがあるが、まさにその通りの大音響だ。それもそのはず、その数がまたハンパではないのだ。我が家の庭のトネリコの樹にとまっているセミの数を数えたら50匹以上がいた。近くの柿の木にも同じくらいいるらしい。柿の木は葉が密集しているので数は数えられないが、常時2,3匹が葉の間から飛び立って周辺を飛び回っており、5秒か10秒するとまた葉の間へと戻っていく。

 けれどそのセミの声も朝10時過ぎになると弱くなってゆき、11時頃にはピタッと鳴き止む。さすがのセミにも、この暑さはこたえるのだろうか。セミが鳴き止むとこの住宅街はウソのような静寂に支配される。耳を澄ませても何も聞こえない。それは不思議な感覚である。

 セミは土の中で何年も幼虫時代を過ごし、土から出て成虫になる。注意深く観察していると、朝7時頃、セミが脱皮する様子を見ることができる。ヨボヨボと樹の幹を昇ってきた幼虫が動かなくなり、やがて背中が割れて濡れたような緑色の縮れた羽根の成虫が少しずつ出てくる。そして1時間もすると羽根にはまだ緑色も残っているものの、一人前のセミになって飛び立つ。そして交尾相手を求めて全身を振るわせて鳴き始めるのだ。こうして命を輝かせながら短い夏を過ごすセミを見ると、生命の神秘にを思わずにはいられない。

脱皮直後のセミ(まだ羽の色が緑色である)

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                                       給与制限法を作ろう


 今年ようやく1時間あたりの最低賃金が1000円を超えたという。そのこと自体は歓迎すべきことだろうが、だからといってこれで貧富の格差が縮まるようなことは期待できない。そこで私は「給与制限法」というような法律を作ることを提案したい。

 具体的に言うと、同一の会社内では、年令や地位、職種などの違いにかかわらず、最高給与額は最低給与額の何倍以内と決めるのである。たとえば、それを10倍とし、ある会社で最低賃金で働く従業員の時給が1000円とすれば、1日8時間、1ヶ月に20日の勤務で、その従業員の月給は16万円となる。その場合、その会社の社長も上級社員も160万円以上の給与を貰うことはできないこととするのである。もちろん、給与には報奨金とか歩合給とかの名目の給付も含める。

 と、こんな提案をすれば、それは経済の基本原則を知らぬ者の言うことで、そんなことをすれば経済は大混乱に陥り、優良な会社が次々と海外に移転することになって日本経済は破綻すると批判されるだろう。確かにその懸念があることは私も否定しない。

 しかし、日本に1億人の人間がいる以上、最低限の市場は存在し、経済活動は成り立つ。それに、問題は何十年単位の長い目で見た時、国際的に日本がどう評価されるかで、日本が貧富の差が少ない暮らしやすい国だという認識が広まれば、日本に移り住みたいという外国人も増えてくるだろう。日本が新しい生活スタイルの範を示すのだ。北欧の国々は経済成長を犠牲にしても豊かな福祉社会を実現し、それが世界的に評価された。同様に日本も平和で平等な社会の実現に向けて、世界をリードするだけの条件が整った国だと私は思っている。

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                                      はじめてのおつかい


 久しぶりに「はじめてのおつかい」というバラエティー番組を見た。まだ小学校入学前の小さな子が、親に頼まれて近くのお見せにお使いに行くという番組だ。私の子どもがまだ小さかった頃、何度か見たことがあるが、その後すっかり忘れていたのだった。

 今回の番組では、お父さんに頼まれて近くのホームセンターへ石灰を買いにいったのである。こんな小さな子に石灰の袋など持てるだろうかと私は心配していたのだが、番組ではその前に大問題が起こった。その子が「セッカイ」という名前を覚えられずに、「セカイ」と言ったからだ。「セカイをください」と言われたホームセンターの人は何のことか分からず、しばらく「セッカイ」だとは気づかない。その間のやり取りが何ともかわいかった。しかもこの子が「そうだ」というのを東北弁で「ンダ」と言うのもかわいかった。 

 小さな子の一途な思い、おとなには思いつかないような発想、お使いを果たして満面の笑みを浮かべる姿、そのどれもがかわいい。こういう番組を見ていると、今、子育てをしている人たちがうらやましくなってしまう。

 最近少子化が問題になって、そのため子ども手当だ、学費の無償化だ、学童保育の充実だと、いろんな支援策が論じられている。そのこと自体には、私は何の異論もない。親にだけ経済的な負担をかけるのではなく、社会が全体として子どもの面倒を見るような態勢を整えるのはいいことだ。でも、そのような少子化対策にはまだるっこしさを感じる。少子化対策の一番のポイントは、子どもはかわいいと感じる人を増やすこと、子どもと共に暮らす幸せな家族生活を送りたいと考える人を増やすことだろう。「はじめてのおつかい」、がんばれ!

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                                      子どもを守るために(2)


 先に私は「子どもを守るために」という文章を書いて、社会的に最も弱い立場にある子どもを守るためには、親の権利を制限しても子どもの安全を守るべきだ、そのためには児童相談所の権限を強化すべきだと書いた。そのとき、私の念頭にあったけれど、いくら何でもここまで書いてはいけないと思っていたことをあえて書いてみたくなった。それほど私は最近の幼児虐待のニュースに歯がゆい思いをしているということだ。

 私は児童相談所に要注意家庭をモニターする権限を与えてはどうかと思っている。何らかの根拠によって、子どもが虐待を受ける可能性があると判断される家庭に対しては、児童相談所がカメラやマイクなどを設置して日常的にモニタリングする権限を与えるのである。もちろん、ある家庭をその対象とした場合はその旨を家庭の構成員に通告したうえでのことだ。そしてモニタリングの結果、懸念される事態が発生したと判断すれば、ただちに介入して子どもを保護するのである。もちろん、モニタリングで得られた情報は極秘扱いとする。

 もしそんなことは児童相談所のマンパワーでは無理だというのなら、ボランティアを募集して、2,3時間おきに交替しながら24時間体制で監視すればよい。そのボランティアは遠隔地に住む人とし、モニターする人もされる人も相手が誰かは分からないようにする。そのような状態で、虐待の兆候がないかだけをチェックしてもらうのだ。もし可能ならAIを利用して映像や音声をチェックしてもよいと思う。

 私は本来、こんなことには絶対反対の立場の人間である。でもそんなことを言っていられないくらい児童虐待は深刻な問題だ。1人でも2人でも救いたいのだ。

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                                      母のこと(4)


 「母のこと(3)」で、私は母に叱られたことが一度しかないと書いた。同様に母とケンカしたということも一度しかない。それは、母が自分の主張を抑えて周囲の人の考えを尊重するということを、基本としてきた人だからだ。それは子どもに対しても例外ではなかった。しかし、そんな母にもどうしても受け入れられないことがあって、それを巡って私と母は対立したのだった。

  母が尋常小学校にいたのは、満州事変、上海事変と日中戦争がどんどん拡大していた時期である。この時代、学校の先生はことあるごとに戦争の大儀を説いていたようで、優等生だった母はそれを真に受けて純粋な軍国少女になったようだ。そして母が女中奉公をしていた頃、太平洋戦争が始まると、母の信念はますます強固になった。そして、終戦を迎えた後も、あの戦争で日本は正しかったし、自分達は純粋な気持ちで日本に尽くしたのだという信念は変わらなかったのである。

 そして、私が大学生の頃、私と母はその戦争の理解を巡って論争になった。私があの戦争は侵略戦争だったと言った時、母は当時の新聞論調などを引き合いに出して、あの戦争は仕掛けられた戦争で、日本の戦いは防衛的な戦いだった力説したのだ。母はハルノートやABCD包囲網などの歴史的事実もよく知っていて、論争は平行線をたどった。そして、それにいらだった私がついに決定的なひとことを口にしたのだった。「あの戦争の戦場は中国だった。他国で戦っているのになぜ防衛なのか」と。それに反論できなかった母は不意にボロボロと涙をこぼして論争は終わった。それは私がこれまでにたった一度だけ見た母の涙である。言ってはいけないと控えていたあの一言をなぜ口にしたのか、今も悔やまれる。

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2023/07/17

               7月の記事


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あさきゆめみし     …  人生は浅い夢のように流れていく

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近江天保一揆に実像(2)…  これまで語られてきたことは本当だろうか

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裁判は復讐ではない   …  裁判では被害者遺族の感情を斟酌すべきではない

子どもを守るために   …  子どもは社会が守らなければならない

母のこと(1)     …  母はダシジャコのかじって私を生んでくれた

母のこと(2)     …  私の求めに応じて、母は手記を書いてくれた

母のこと(3)     …  たった1回だけ、私は母に叱られたことがある

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              母のこと(3)


 私が母に叱られた記憶はたった1回しかないし、母に反抗したことは一度もない。それは母が自己犠牲の人で、どんなときも子どものことを第1に考えてくれていたし、子どもの気持ちを尊重してくれたからだ。

 私の家は貧しかったので、子どものおやつを買うような余裕はほとんどなかった。それでも、少しでもと考えたからだろう、母が4キロほど離れた街に行く時はバスに乗らず歩いていくことで、片道10円、往復で20円の金を浮かせた。それで母は一個1円のキャラメルを買って来て、それが私たち兄弟3人の1週間のおやつになった。そんな母の姿を普段から見ていたので、私たち兄弟が母に不満を感じることはなかった。

 私がたった1回、母に叱られたのは小学校の低学年の頃である。私がクレヨンで家の柱に落書きしたとき、母は「落書きしてはいけないよ」と穏やかに注意してくれた。それで私はその横に目立つように「落書きするな」と書いた。するとそれを見つけた母が険しい表情で怒ったのである。私が叱られたのはこのときだけだ。

 でもこのとき幼い私には納得がゆかなかった。母が「落書きするな」と言ったから、母を代弁するつもりで「落書きするな」と書いたのに、なぜ怒られるのかと思ったのである。そこで、私は手に持っていたものを母に投げつけて泣きながら抗議した。すると、母は急にオロオロし始めて、「お前の気持ちが分かってなかったんやな、堪忍な、堪忍な」と謝り始めたのである。普通なら謝るようなことではない。でも、こんな時にでも、人を責めずに自分を責める、そして子どもの気持ちを大事にする母はそんな人だった。こんなにしょんぼりとした母の姿を私は初めて見て、母の誠実さを感じたのだった。

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              母のこと(2)

 

 私の母は現在、特別養護老人ホームに入っている。幸い、そこで穏やかな老後を送っているようだが、その人生は波乱に満ちたものだった。でも、つねにひたむきに生きてきて、世間に恥じるようなことは何もなかったと思う。その生き方を、是非とも私の子ども達や子孫に伝えたいと考えて、今から20年ほど前、私は母に一生を振り返える手記を書いてもらった。

 その時、私は母に大学ノートを渡して「これに思い出を書いてほしい」と頼んだ。でも、母は国民学校(小学校)の頃こそ成績が良かったものの、小学校を出ると子守り奉公に出され、その後は京都で女中奉公をし、戦争中は軍需工場で働いていたということで、その間は簡単な手紙やはがき以外に文章を書いたことがなく、私には本当に手記を書いて貰えるという確信はなかった。

 ところが、1年ほどして「これだけ書いた」と大学ノートを返えされた。見ると、横書きの大学ノートに丁寧に縦の罫線を引いて升目を作り、その一升一升に1文字ずつ丁寧に書き込んであったのだ。文字はいわゆるカナクギ流で決して上手ではない。でも、それがいかに心を込めた文字であるかは一見して分かった。

 そこで私は母の手記をワープロに入れて印刷した。するとそれが知人の目にとまって、その人からこの内容に心当たりがあるという連絡を貰ったのだった。母は名前を「やす」というのだが、京都の店に奉公していたとき、そこのお婆さんに気に入られて、孫もこんな娘になって欲しいと、孫に「泰子」と名付けたという。女中の名前を孫に付けるなど、この時代には異例のことだったはずだ。その人は母の手記を読んで感動し、自分はその泰子さんを知っていますよと連絡してくれたのである。

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              母のこと(1)


 私の母は現在101才、びわ湖のそばの特別養護老人ホームに入っている。そこのスタッフさんによれば、最近、認知症が進んだということだが、食欲もしっかりあって、体は元気だそうだ。以前はひと月に1回くらいのペースで会いに行き、行けば個室に入り込んでおしゃべりをしたり歌を歌ったりもしていたが、コロナが始まってからは年に3回だけ、しかも玄関を入った所でアクリル板を挟んでの面会になった。そのせいかどうか分からないが、最近は私のことも思い出せないようで、私が息子だといってもニコニコ笑っているばかりだ。

 100才を超えたということは、根が丈夫なのだろう。私もその母から丈夫な体をもらった。私は成人してからは病気らしい病気もせず、4年前には悪性リンパ腫を患ったが、それも1ヶ月ほどの入院で寛解になった。私はこの体をもらったことについて、母に感謝している。

 でも、私がこの体をもらえたのは、母の涙ぐましい努力のおかげだ。私がお腹にいた時、母は本来は捨ててしまうみそ汁のダシジャコ(煮干し)を毎日、食べていたそうだし、時には祖父母の目を盗んでダシを取る前のジャコを食べたこともあったそうだ。私の家は貧しかったので、普段のおかずは野菜の煮付けがほとんどで、タンパク質系のおかずは週に一度ほど魚の干物を食べるか、家のニワトリが生む玉子を時たま食べる程度だった。でも、医者の家で女中奉公をして、それなりに栄養に関する知識を持っていた母は、健康な子供を産むためにはタンパク質やカルシウムが必要だと知っていたので、ひたすらダシジャコをかじっていたのだという。

 そして私が生まれた後は、干物も玉子も自分の食べる分まで私に回して私を育ててくれたのである。

私の母(5年前、特養の近くのメタセコイア並木で撮影)

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              子どもを守るために


 最近、虐待を受けて死亡した子のニュースをよく見聞きし、そのたびに私は生理的な恐怖感を感じて平静な状態ではいられなくなる。その事例の中には、周囲の誰も虐待に気付かなかった場合や、通告を受けた児童相談所が軽く考えてしまった場合、児童相談所相互間の情報共有が不十分だった場合などがあるようで、それらについては個々に検証すべきことだろうが、私はそれが出来るほどの情報を持っていないので、ここではもう少し根本的な問題について論じてみたい。

 そのひとつは、子どもを親の持ち物であるかのように見る感覚だ。昔、子どもを虐待した親が周囲からの忠告に対して「これは俺の子だ。煮て食おうと焼いて食おうと俺の自由だ。余計な口出しはしないでくれ。」と居直るというドラマがあった。これは極端な例だろうが、そこまでいかないまでも、子どもをどう育てるかは親がその責任に於いて決めることだという考え方、つまり「親権」を過大に評価する考え方が今も残っている。

 もう一つは子どもの「躾」のためには暴力も許されるという考え方だ。今だに「これは躾か暴力か」などというバカげた択一論を聞くことがあるが、躾と暴力は対立概念ではない。目的が何であろうと暴力は許されないということを社会が認識する必要がある。

 そして、そのような認識に立って児童相談所の権限を強化すべきだ。「疑わしきは罰せず」が法の原則だが、こと虐待に関する限り、疑わしければ躊躇なく子どもを保護すべきである。親の権利を制限してもだ。法は最も弱い者を守るべきであり、この場合最も弱いのは子どもだからだ。その前提は、子どもは親の所有物ではなく、社会の一員、私たちの仲間だという認識である。

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              裁判は復讐ではない


 最近、凶悪事件などの裁判で、被害者の遺族が法廷で心情を語ったというニュースをよく見るようになった。こういうことが以前から行われていたのか、最近になって始まったのかは知らないが、私はいいことだとは思わない。裁判は被告を糾弾する場ではなく、被告の刑罰を決める場であり、その判断は犯罪に関する客観的事実と法律によって行われるべきで、被害者や遺族の感情に影響されるべきではないと思うからだ。

 法廷で「犯人に極刑を望む」という被害者遺族もいるようだ。凶悪事件で自分の肉親が残酷な殺され方をしたら、犯人を憎んで死刑にして欲しいと感じるのは自然なことで、私も同じ立場になったら同じように思うだろう。だから、そのように言う遺族を非難するつもりはないが、法廷は復讐の場ではない。だから死刑にして欲しい、つまり「人を殺してほしい」などということが法廷で公然と言われるのは問題だ。裁判官が「死刑に処する」というのは法的な判断だが、遺族がそれを言うのは復讐心だからだ。裁判所は遺族に発言させるべきではない。

 最近、被害者に寄り添うべきだ、被害者遺族の処罰感情も考慮すべきだとよく言われる。被害者に寄り添うことに私は何の異論もないが、だからといって被害者と一緒になって犯人を敵視すべきではない。どんな犯罪者も一個の人格を持った人間であり、その犯罪に至ったのにはそれなりの事情があるはずだからだ。法の裁きは、犯罪者に対してこそ公正でなければならない。

 犯罪者が憎いのなら自分も責めを負う覚悟で彼を殺してもよい。でも、自分は安全地帯にいながら、まるで人民裁判のように、「死刑だ、死刑だ」と言うべきではない。冷静な判断こそが法治主義の根幹なのだから。

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              裁判員制度反対(3)


 裁判員裁判反対(2)で、私は犯罪事実の認定に関する問題を論じた。アメリカの場合、陪審員が参加するのは犯罪事実の認定、つまり有罪か無罪かの判定までだが、日本の裁判員制度では有罪と判断された場合の量刑(死刑か懲役刑か、懲役なら何年か)の決定にまで裁判員が参加する。そうなると、他の事件と比較した場合の公平性や、犯罪に至った情状をどこまで酌量するかという点で問題が起こる可能性がある。

 まず公平性についてだ。これまでの裁判で公平性を担保してきたのは、裁判官同士の間で暗黙のうちに了解されてきた基準と、過去の判例だろう。しかし、素人の裁判員は暗黙の了解など知らないし、仮に誰かからそれを教えられたとしても、それが法律とか規則とかで明文化されたものでない限り、それに従うべき義務はない。過去の判例に関しても、今ならデータベースで過去の判例を検索することはできるだろうが、素人の裁判員に何百ページも何千ページもの判例を読めと求めることはできないだろう。仮に読んだとしても、そこから一定の基準を読み取ることなど不可能に近い。 

 つぎに情状に関してだ。たとえば殺人罪の場合、その刑罰は懲役5年から死刑まで大きな幅があるが、それは被告の置かれた立場や犯行に至った経過(情状)が異なるからで、量刑の決定には情状の判断が不可欠である。裁判官は職業柄、それなりにさまざまな人間を知っているだろうが、ごく狭い世界に生き、自分の周囲のごくわずかな人たちしか知らない素人の私たちに、犯罪者の立場や心理が分かるだろうか。また、裁判で斟酌すべきは被告の情状であって、被害者の情状ではないはずだが、素人にその区別が出来るかどうかもはなはだ疑問だ。

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              裁判員制度反対(2)


 私は日本の裁判員制度には反対である。ただし、それは理念として陪審員制度や裁判員制度に反対するということではない。私たちはこの社会の主権者として、立法、行政、司法を含む社会運営のすべてに関与する権利と義務を持つべきだと思うからである。実際、政治権力などが裁判に干渉してくる可能性があるような場合、それを排除するためには一般人が裁判に参加すべきだろう。だから、私が裁判員制度に反対するのはもっぱら運営上の実際的な困難のためである。

 たとえば、刑事裁判の場合、犯罪事実の認定と、量刑の決定というふたつの段階がある。そのうち犯罪事実の認定に当たっては、余談や偏見にとらわれず具体的な証拠に従って客観的な判断をしなければならないが、それは相当の訓練を受け、経験を積んだ人でなければ無理だ。証拠から事実を判断するには、科学や法医学、心理学などの広範な知識が必要だが、普通の人の場合、そんな知識は持っていないし、起訴状は具体的な事実を根拠にしてそれなりに論理的に書かれているはずだが、相当の文章読解力や論理的思考力がなければ、起訴内容をまともに理解し、その妥当性を判断することはできない。

 さらにマスコミの事件報道などで予断を持った一般人の場合、証拠によってではなく、心証で判断してしまいかねない。「あんなひどい事をするのだからあいつは悪い奴だ、悪い奴だから犯人に違いない」というような循環論法にも陥りかねない。そうなれば多数の冤罪を生みだしてしまうだろう。かつて共産主義を自称する国で「人民裁判」が行われ、多数の人間が無実の罪で裁かれた。集団主義で同調圧力の強い日本の場合、特にその危険が強いと私は思っている。

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              裁判員制度反対(1)


 昔、高校で「12人の怒れる男たち」という演劇(もとは、アメリカ映画)を鑑賞して、その感想を話し合うという授業が行われたことがある。この芝居はスラム街で育った少年が親を殺したとして起訴され、12人の陪審員が有罪か無罪かを話し合うというものだった。アメリカの裁判では陪審員は被告が有罪か無罪かのみを判定するのだが、その評決は全員一致でなければ下せない。

 最初は目撃証言からも、物的証拠からも、状況証拠からも少年の有罪は明白だと思われた。だからほとんどの陪審員は早く有罪の評決を出して、早く評議を終わらせたいと苛立っていた。ところが一人、証言の些細な矛盾に気づいた陪審員がいて、有罪と断定できないと言い出したのだ。そして彼が証言の矛盾を突いていくうちに有罪とする論拠が次々に崩れていき、一人、また一人と判断をひるがえす者が出て、最後は全員一致で無罪の評決を出すという筋立てである。

 この演劇鑑賞は同和教育の一環として行われ、これを企画した先生は、「スラム街の少年に対する差別と偏見が有罪だという先入観を作り出した」「多人数による陪審制度は偏見を克服する有効な手段だ」というところへ話し合いの結論を誘導したがっているようだった。実際、生徒の多数もそれに沿った感想を述べたのだった。

 でも私はこれに反対だった。この場合、証言の矛盾に気づくことのできる頭のいい陪審員がいて、しかもその人が周囲の圧力に抗して多数意見に反論する勇気を持っていたからよかった。普通ならこの少年は偏見によって有罪とされ、死刑になっていただろう。多数意見やマスコミに流されやすい日本の場合は特に危険だ。だから私は陪審員制度に反対すべきだと心に決めたのだった。

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              中性化社会


 私が若かった昭和時代は、男は男らしく、女は女らしくという社会で、男は女らしい女に、女は男らしい男に憧れていた。音楽やドラマなどもそのような内容のものが多く、「知らなかったの、愛したら男の人って強いのね、いきなり口づけされた夜、私は蜜になりました」などと、今ならセクハラと言われかねないような曲もヒットしていたのだ。その種の曲は歌謡曲に多く、女性差別だと私が嫌悪を感じる曲もあったが、その私も男らしい男、女らしい女は魅力的だと思っていた。

 男らしさ、女らしさのまず第1は体つきだろう。男はがっしりとした骨格と筋肉質の体つきをしている。さらに胸毛やスネ毛、脇毛などが毛深いのも男の特徴だ。私は胸毛もスネ毛もなかったので、時として「きれいな体だね」と言われることもあったが、そんな時は男性的な魅力がないと言われたような気がして、不愉快に感じたものだ。ところが、最近は男性でも美容脱毛する人が多いのだと聞くと、何か情けない気分になる。 

 しかも、美容脱毛だけではなく、肌の手入れをしたり化粧したりする男性も多いのだとか。もちろん、男性は男性用の化粧なのだろうけれど、もともと女性の派手な化粧も好きではない私としては、「もうやめてくれ」と言いたくなる。オーデコロンなどはもってのほかだ。

 体つきや化粧だけではない。たとえばアイドルグループでも、男性、女性を問わず「かわいい」ことが売り物になっているようで、曲調もダンスもどんどん近づいている。歌い手の意識も聞き手の意識も中性化しているのだ。ジェンダー平等は望ましいことだが、中性化はそれとは別だ。男性は男性である前に男で、男である前にオスであるべきだと私は思う。女性も同様である。

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              近江天保一揆の実像(2)


 先に「近江天保一揆の実像(1)」に書いたストーリーは一揆の舞台となった野洲地区で語り継がれているもので、これにそって毎年土川平兵衛ら一揆の参加者を顕彰する「天保義民祭」が行われている。しかしこの話は本当に正しいのだろうか。私が特に疑問を感じたのは、これだけ大規模な一揆が計画されていたのなら、なぜそれが漏れなかったのかということだった。もし誰かが「おおそれながら」と奉行所にでも訴え出ていれば、それでおしまいとなったはずなのだ。

 先のストーリーは一揆の直後に書かれた「ムカデ再来記」という文章に纏められ、地域の人たちの間で秘かに書き写されて広まったのだそうだ。そして、明治時代にはこの地方出身の自由民権運動家が「ムカデ再来記」やその他の資料をもとにして「天保義民録」という本を書き、これは出版されたので多くの人に読まれて、その内容は事実と考えられてきたのだそうだ。

 でも、天保義民録はどこまで正しいのか、その疑問を持ちながら、私は古川さんという人に話を聞いたのだった。古川さんは一揆前後の古文書の解読で証明された事実以外は事実と認めないという姿勢を貫いている。その古川さん自身は一揆前に土川平兵衛が地域の庄屋達に送った手紙を発見し、それから判断して土川平兵衛が中心人物の一人であることに疑いはないが、土川平兵衛が全体のリーダーだったかどうかは分からないと言う。

 何しろ一揆は150年も前のことだ。取り調べに際して幕府は関係書類を押収したし、押収を免れた書類は後難を恐れて百姓自身が処分した。現在見つかる資料はそれを逃れたごくわずかの古文書だけなのである。近江天保一揆の実像は永久に分からないままかも知れない。

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 近江天保一揆の実像(1)


 私はラジオ番組を制作するために、ここしばらく近江天保一揆を追ってきた。近江天保一揆というのは、幕末の天保13年、幕府が野洲川沿いの新開地(新しく田んぼになったとこ)を調査するために検地チームを派遣したところ、そのような検地は幕府による苛酷な年貢取り立てにつながるとして4万人もの農民が一斉に蜂起して

検地を中止に追い込んだというものである。今まで語られてきた近江天保一揆の概要をまとめてみよう。

 一揆の中心になったのは土川平兵衛という庄屋で、彼は親しい庄屋と共に近隣の庄屋達を説得して一揆の計画を立て、野洲川流域3郡の農民を蜂起させた。一揆勢は検地役人の宿舎を包囲し、それに恐れをなした役人は「検地を10万日延期する」という証文を書いた。その証文を得た一揆勢は整然と解散し、農民側にも役人側にも一人の犠牲者も出なかったということである。

 しかし、その後の幕府による取り調べは苛酷を究めた。その地域の庄屋や指導層は次々と捕らえられ、激しい拷問による取り調べが行われて、囚人たちは牢屋の中で次々に死んでいった。そして、指導層は江戸でさらに取り調べを受けるために遠丸籠で江戸送りになった。幕府の役人達は、最期の別れを告げるために遠丸籠の周りに集まった農民に、籠の中の罪人を公開した。それは見せしめのためで、罪人達は連日の拷問で骨は折れ肉は裂けていたので、籠に付けられた名札がなければ誰が誰か見分けがつかない状態だったという。そんなふうにして江戸に送られていく土川平兵衛に、群衆は「平兵衛大明神」と呼びかけ、両手を合わせて見送ったという。この江戸送りの途中で11人中4人が死に、残った7人もほぼ一ヶ月以内に死に絶えたのである。

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              偽画像と偽動画(2)


 静止画に限らず、動画でもフェイク画像が作れるという。その実例は4年前の「日経サイエンス」誌にすでに掲載されていた。それによると、アメリカ国旗の前にスーツ姿のオバマ元大統領が登場して「トランプはクソったれだ」と言うのだそうだ。そしてその後、彼は「皆さんは私がこんな発言をしないのはご存知だろう」と言って、このフェイク映像が作られた手法を公開するのだという。これは、フェイク動画が容易に作れることやその危険性を警告する動画だったのである。

 フェイク動画を作るにはいくつかのソフトがあるそうで、日経サイエンスには編集部員がFace2Faceというソフトを使ってトランプ大統領のフェイク動画を作った実験が紹介されていた。準備するのはトランプ大統領の記者会見を撮影した約30分の動画で、それから静止画を取り出してこれを素材とする。別のカメラでモデルとなる人物(この場合は編集部員自身)を撮影し、そこから表情に関する特徴量のみを抽出して、その特徴を持ったトランプ画像を造ってつなぎ合わせる。こうすれば、モデルの表情がそのままトランプの表情になって、トランプは表情豊かに語り出すのだという。

 このレポートによれば、フェイク動画を作成するためには画像生成AIと、フェイクを見破る判定AIを対抗的に働かせて動画の精度を上げるのだそうだ。その丁々発止のせめぎ合いはAIどうしの間で行われ、人間が介入する余地がない。しかも、その間にどんどんAIの能力が向上する。つまり、フェイク動画を見破るソフトを作ったとしても、それはとりもなおさずフェイクの質を高めることになるのだ。今後、私たちは見破れないフェイクの中で生きていかねばならないのだろうか。

「日経サイエンス」編集部員が実際に作成した実演したフェイク動画の一部
(下段の編集部員の表情通りにトランプ元大統領の表情が変わる)

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             偽画像と偽動画(1)


 もう1年ほども前のことだが、「ドローンで撮影された静岡県の水害、マジで悲惨すぎる」と題する3枚の画像がSNSに投稿され、それが4000回もリツィートされて話題になった。これは、後に投稿者自身がStable Diffusionという画像生成ソフトによって作られたフェイク映像だと認めたのだそうだが、素人でもこんなに迫真に迫る画像が作れるのかという衝撃もあって、新聞でも報道された。私も最初は新聞で知ったのだった。

 新聞で見た私は、早速インターネットで検索してみた。すると濁流に呑み込まれている家々の画像が見つかり、家や立木の陰が濁流に映っている様子、ところどころで水流が乱れている様子など、きわめてリアルだと私は感じた。インターネットにはこの画像の不自然さを指摘する記事もあったが、それはこれらの画像がフェイクだと知った上で注意深く見れば気づくという程度で、先入観なしに見れば疑いを抱くことはないだろう。

 私たちがこのような画像をフェイクと気づけない一つの理由は「水害」という非日常的なできごとを扱っているからだ。見慣れた光景ではないから、多少おかしくても気づかないのである。しかし、このことは重要な問題をはらんでいる。たとえば「戦場に累々と横たわる死体」というような画像を見せられた場合、私たちは日常生活でそのようなものを見たことがないから、それをフェイクと見破ることができないということだ。したがって、このようなフェイク画像を含んだフェイクニュースを見せられた場合、簡単に騙されかねないのである。

 コンピューターに表示される画像ならまだしも、新聞に掲載される写真やテレビで瞬間的に映し出される写真の場合、もはや手の打ちようがないのである。

SNSに投稿された水害のフェイク画像(インターネットより)

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              ウソ番組


 最近、テレビで間違った内容の信じられないような番組を見た。それは廃食用油を航空機燃料に加工するというトピックスを扱った番組で、メインキャスターが「食用油は植物から作られたものなので、こうして作られた航空燃料を燃やした時に出る二酸化炭素は、再び植物に吸収される」と解説したのである。

 これは、とんでもない間違いだ。石油を燃やした時に出る二酸化炭素も、食用油を燃やした時に出る二酸化炭素も、同じ二酸化炭素である。だからどちらでも同じように植物によって吸収される。高校で理科を教えていた私には、そんなことは自明の理だし、高校でまともに理科を勉強した人なら、それはごく自然に理解できるだろう。しかし、それが理解できない人もまたいるということもまた事実で、それが問題なのだ。

 あの放送では、キャスターが意図的にウソをつこうとしたのではなく、彼自身がそのような誤った理解をしていたのだろう。でも、そのような誤解がキャスター個人にとどまるものなのか、プロデューサーやディレクターにまで及ぶものなのかは分からない。もし、ディレクターが気づいていれば、発言後すぐに、あるいはCM明けくらいに訂正放送が入るはずだが、それはなかった。本当なら、番組の最後まで見て、訂正の有無を確認すべきだったが、それはしていない。

 この放送が航空燃料のエコロジーを取り上げたことは評価するが、それを扱うには理解が浅すぎた。この場合の論点は、石油として地中に眠っていた炭素を新たに大気中に解き放つのか、もともと大気に含まれており、それを植物が吸収していた炭素を、また大気に戻すだけなのかという点だったはずなのである。

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              アメリカへの愛憎

   

 日本は過去に2度、アメリカによって国家の存亡の危機から救われたことがある。

 その1回目は、ペリーが黒船で来航したときである。当時はイギリスやフランスがアジアに植民地を広げようと競い合っていた時期で、10年ほど前にはアヘン戦争が起こっていた。そんな中で、日本が開国し国防力を強化しなければやがて植民地にされてしまうということを日本人に自覚させたのがペリーだった。

 そして、2回目は日本が太平洋戦争に敗れて、アメリカの支配下に入ったときである。日本はアメリカに戦争を仕掛け、多大な被害を与えたにもかかわらず、アメリカは寛大で的確な占領政策をとり、それによって日本は過去の軍国主義や封建社会のしがらみから解放された。もし日本を占領したのがアメリカでなければ、今日の日本はなかっただろう。

 だから日本が最も感謝すべき国はアメリカだ。さらにアメリカは偉大な人々が偉大な社会を作った国でもある。奴隷制度があった時代でも、心ある人々は身の危険を顧みず黒人たちがカナダに逃れるのを手助けしていたし、南北戦争では自分たちの血を流して奴隷解放を成し遂げた。それでもなお残る黒人差別に対しては公民権法を成立させ、着実に黒人の地位を向上させたのだ。その結果、黒人の大統領さえ誕生することになった。それは少数の先覚者だけの功績ではない。アメリカ社会が全体として成し遂げた偉業だ。

 しかし、アメリカは言いがかりをつけてイラクを攻撃し、他国の大統領を殺すという横暴な振る舞いをした国でもある。そして、今、アメリカ社会の分断で、偉大な社会が消滅するのではないかと、私は心配している。

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               クラスター爆弾


 ウクライナの戦況に好転が見られない中、アメリカはウクライナにクラスター爆弾の供与を決めたという。クラスター弾というのは多数の子爆弾を詰めた容器を空中で爆発させて、何百メートルもの広範囲に子爆弾を散布し、その範囲内の人を殺傷するというものである。建物などへの破壊力は小さいので、軍事基地の破壊ではなく、もっぱら人間の殺傷を目的として使われる。しかも、子爆弾は意図的に不発率を高めているので、それが地雷のように残ってしまうのである。

 アメリカはこれをベトナム戦争やイラク戦争で使ったが、その非人道性が批判され、イラク戦争後の2008年、クラスター爆弾を廃棄すべきだとするウェリントン宣言が120カ国の賛同で発表された。そして廃棄のためのオスロ条約が締結されて90カ国が署名し、現時点で35カ国が批准している。その中には日本やフランス、ドイツが含まれているが、アメリカやイギリスは含まれていない。アメリカにすれば従来から使ってきた兵器にイチャモンをつけられたという感覚だろうし、イギリスはアメリカに遠慮しているのだろう。

 これをウクライナに供与するとしたアメリカのバイデン政権には私は失望した。アメリカはウクライナの領土内に侵攻しているのはロシアの軍人だから、ウクライナがこれを使っても民間人への被害はないということだろう。しかし広範囲に不発弾が残ってウクライナの領土が荒廃するのは避けられない。ただでさえロシア軍の地雷がウクライナの将来に暗い影を落としているのに、である。疑いたくはないが、戦場の大部分はロシア系の住民が多い地方だから、戦後どうなってもいいと思っているのではないかとさえ勘ぐりたくなる。

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              ジンと夢に酔うて


 「あさきゆめみし」という文章で、最近よく夢を見るがほとんど記憶に残らないと書いたのはほんの2、3日前だがその後、強烈な印象が残る夢を2回も見た。

 そのひとつは私が法廷を舞台にした芝居に出るという夢だ。少し前に「12人の怒れる男達」という演劇のことを書いたので、その影響かもしれない。私は検事か弁護士かの役で、長ぜりふを言うことになっていた。ところが、どんどん出番が迫ってくるのに、私は自分のセリフを覚えていないのだ。でも、今さら覚えるのは無理だ。だから、私は台本を芝居の小道具であるかのように手に持って、カンニングしながらセリフをしゃべろうと思いたった。そこで私のセリフが載っているページを探すのだが、それが見つからない。……アア、もうダメだ!…と思うとどんどん興奮して体が火照り、筋肉がピクピクとけいれんした。夢はここで終わるのだが、目覚めた後にも体の火照りは残っていた。

 もうひとつは、私がどこかの高校に講師として採用され、そこの人事担当者に「部活の指導もさせてほしい」と頼み込んでいる夢だ。「文化部なら、科学でも、放送でも、演劇でも、写真でも、何でもやる」と、私は自分のやりたいことを堂々と、理路整然と語っていた。これは私の願望が夢になったのだろうが、やはり、夢から覚めた後、その熱い思いが余韻として残っていた。

 これらの夢は私がまだ現役で社会的活動をしたいという強い思いを持っているからだろう。そう思うと私は嬉しくなった。加藤登紀子の西部門哀歌という曲に「二人して暮らす夢を見たよ、夢を。ジンと夢に酔うて」という歌詞があるが、私もこの若い二人のように現実への強い思いが夢になり、そして、その夢に酔うたのだ。

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              あさきゆめみし


 最近夢を見ることが多くなった。夜中でも朝でも、目が覚めた時にはしばらくその夢の余韻に浸っていることがある。しかしその夢はいつまでも記憶に残っているようなものではなく、5分もすれば何の夢だったかも思い出せなくなるという程度のものだ。夜だけではない。昼、居間のソファーに横になって窓の外の景色を眺めていると、つい眠ってしまうことがあって、目が覚めた時にも、何かの夢を見ていたような感覚だけが残っている。

 実はこのソファーは10年ほど前に死んだムーという犬が好きな場所でもあった。ムーがこのソファーで眠っている時、私がその横に座って滑らかなムーの毛を撫でてやることがよくあった。そんな時、ムーのまぶたがピクピクと小刻みに動いていたものだ。それを見て私は「ムーは夢を見ているのだな」と思った。

 睡眠には夢を見ずにぐっすり眠っているノンレム睡眠と、夢を見ていて、まぶたの中の眼球がピクピク動くレム睡眠があるのだそうだが、ムーは今、レム睡眠なのだなと思ったわけだ。そして今、私が同じソファーでムーと同じようにレム睡眠を楽しんでいるわけだ。

 夢には恐ろしい夢や悲しい夢もあって、そういう夢は記憶に残るが、何気ない夢はすぐに忘れてしまう。そういう夢は幸せな夢なのだろう。たぶん、あのときムーは幸せだったのだろうし、今の私も幸せなのだ。

 いろは歌には「浅き夢見し、酔ひもせす」とあるが、人生は夢の連続だ。また、Row Your Boatという歌は、Row row row your boat, gently down the strem, Merrily merrily merrily merrily  Life is but a dream(流れに沿って愉快に陽気にボートを漕げ、人生はただの夢さ)と歌っている。私は今、夢を見ながら人生の川を漕ぎ下っているのである。

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              二羽のカラス


 1ヶ月ほど前、二羽のヒヨドリのラブラブの様子を見て以来、鳥のことが気になって注意して見るようになった。すると、ヒヨドリばかりではなくスズメもカラスも白鷺もペアーで飛んでいる場合が多いことを知った。たぶん、今の季節はどの鳥にとっても繁殖の季節なのだろう。数日前には絡まりあうように行動している二羽のスズメを見つけたので、警戒されないように距離を取りながらついていったら、近くの神社の茂みにそろって消えた。たぶん、そこに巣があったのだろう。

 そして今日、私の家のソファーに寝そべって外を見ていたら、近くの電柱に一羽のカラスが留まっていた。もう一羽来ないかと見ていると、ほんの一分もしないうちに実際にもう一羽が来た。ふつうカラスどうしは互いに警戒しているのだろうか、数十センチ間隔を開けて留まるものだが、このときは体が触れ合う程接近して留まったので、この二羽はペアーなのだろうとすぐに分かった。実際、一羽がもう一羽の羽根にくちばしを差し入れて、羽づくろいのようなことをしている。そしてその後は、二羽の鳥がコツコツとくちばしを合わせていた。人間でいえば、キスにあたるのだろうか。

 そしてしばらくすると、二羽はそろって1メートル程横に移動した。そしてまたしばらくすると今度は二羽がそろって反対方向に向きを変えた。その後も二羽はシンクロしたような動きを繰り返し、やがて一緒にどこかへ飛んでいった。時間にすればほんの5分ほどのことだが、いかにもラブラブという感じで、それを見ていた私は幸せな気分になった。私は普段はカラスにいい感情を持っていない。でも、このときは違った。あのカラスたちはやがて「かわいい七つの子」を生むのだろうか。

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