2023/03/30

                人声私語23について


 人声私語23は、私の生活実感や、政治、社会、文化に関する私の思いを、725文字以内の文章で日記風に書いたものですが、日記風とは言っても他人に読んでもらうことを意図しています。「人声私語」というネーミングは、朝日新聞の「天声人語」をもじったものですが、私には「天声人語」は上から目線の文章と感じられますので、それに対抗してあくまでも1個人としての立場から社会を見つめる水平目線の文章にしたいとの思いを込めたものです。

 私は、1994年から95年にかけて同様の趣旨で「人声私語」という文章を書きました。これは全部で約700編あり、いずれ公開したいと考えていますが、さしあたり現在はその中から約100編を選んでテーマ別に分類し、「人生私語ダイジェスト」というページで公開しています。また、そのトップページでは「人声私語」を書いた当時の社会や私個人の状況をやや詳しく書いていますので、こちらの方もご覧下さい。


       人声私語 目次


1月の記事


あれから30年   様変わり   テレビがうるさい   私の大失敗

犬を飼う資格    最後の犬   盗まれた金魚   スズメのお宿  雪のない冬

世界に一つだけの花 ねえねえ症候群   生命保守派  NATOの責任

サントスの脅威  火災報知器が~   これが俳句か?   月は東へ火星は西へ

ほめて殺す      大丈夫です        漫才CMは嫌い     チコちゃんを叱る

武村正義さん   栗本英世さん(1)~(4)       


2月の記事


データが出てこない  特殊詐欺(1)   特殊詐欺(2)    キラキラネーム 

怖い夢   誇らしい夢(1)  誇らしい夢(2)  エッチな夢    夢日記     

「平年」ということば 「根明け」の理由   孔子の述懐    私の夫婦同姓論

「解散命令」とは何か オフレコ破り   こどもたちの声   タモリの言語感覚

なぜ「タイ人男女」? バカなドライバー  ベンチカット   異次元の少子化対策

一色主義     逸失利益という差別   弓を引くヘラクレス  月冴えて

ふしぎな夢を見た   私は女性差別主義者?  自己責任   小さくても幸せな国

笑いを欲しがる人  身構えないで  素直なボク   特別軍事作戦と報償

味オンチの理由


3月の記事


マイナ制度     マスク美人     私の憲法改正論   私の死刑廃止論

春が来た      春に浮かれて    きせつだより    にわとりの殺処分

もののみえかた   奇想天外な夢    事故多発地点      アイドリングストップ

ペテルギウス    安部元首相の責任(1)    安部元首相の責任(2)

井戸謙一さん   山野稔さん  松本修さん(1)  松本修さん(2)

性交という言葉  俗物国家  冤罪国家     3月は工事月間  リアルな防衛論議を

嘉田由紀子さん(1)    嘉田由紀子さん(2)    思い出のアルバム

松の花    松本修さん(3)   身を切る改革?   天気予報・確率予報

霧の朝   里帰り   老いて、その先


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                                      老いて、その先 


 私の家の近くの芹川の土手に古いケヤキ並木がある。おそらく明治、あるいはそれ以前からの並木のようで、どの木も大木になっている。この並木は城下町彦根のシンボルとして大切にされており、三島由紀夫の「絹と明察」という小説にも、美しいケヤキ並木として紹介されているが、私はあまり好きではない。

 それはこの並木を構成するケヤキの多くにコブができ、ごつごつと節くれ立っているからである。中には幹の一部に空洞ができているものもあるし、幹の上の方が強風で折れているものもある。そういう樹を見ると何か痛ましい感じがして目を背けたくなるのである。動物なら人目に付かないところに移動することもできるだろうが、それもできずに老醜をさらけ出している樹がかわいそうに感じるのだ。この並木ばかりではない。彦根城の桜の古木にもコブができかかったものがあって、同じような思いをすることがある。

 人間も同様である。街中で腰が曲がっている人、杖をついてよろよろ歩いている人を見ると、痛ましい思いがして目を背けたくなる。でも、目を背けるのは失礼だと思うから何とか平静を保つようにしているが、それは十年後、二十年後の私の姿でもあるのだと思うと、気分が落ち込んでしまう。樹木なら、切ってしまうという選択肢もあるだろうが、人間の場合はそんなわけにはいかないし、そんなことをしてもらっては困る。ただ幸いなことに最近は介護施設も充実してきて、私の母も特別養護老人ホームに入っている。その施設のスタッフさんは親切だし、気さくで暖かい人たちだ。いずれは私もそんなところで老醜を晒さずに生きて行きたいと思っているが、実際にどうなるかは分からない。

3月の記事

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きせつだより    にわとりの殺処分   もののみえかた  奇想天外な夢 

春に浮かれて   事故多発地点      春が来た    アイドリングストップ 

ペテルギウス  安倍元首相の責任(1)  安倍元首相の責任(2)

井戸謙一さん  山野稔さん      松本修さん(1)  松本修さん(2)

性交ということば  俗物国家  冤罪国家

霧の朝   思い出のアルバム        3月は工事月間     嘉田由紀子さん(1)   

嘉田由紀子さん(2)    老いてその先   身を切る改革?  松本修さん(3)    

天気予報、確率予報     リアルな防衛論議を     里帰り    松の花


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                                      里帰り 


              「うららかな春の日射しは待ちわびた顔に照りつける。

                   前のことは洗い流せと、思い出に塗り替える。」

 これは私が一番好きなフォークシンガー泉谷しげるの、その中でも一番好きな「里帰り」という曲の冒頭部分である。ものすごくやさしい曲だと思う。今から50年ほど前、新米教師だった私はこの曲の優しさにどれだけ慰められたことだろう。

  当時の私は毎日毎日が挫折の連続だった。自分は教師仲間の中の落ちこぼれだと感じて、何度も何度も転職を考えた。仮病を使って仕事を休んだこともある。今から思えば引きこもりの一歩手前だったと思う。そんな私には「前のことを洗い流す」なんて、とうていできることではなかったが、「洗い流せ」と言ってくれる人がいるというだけで、どれだけ救われたことか。

                   「暖かな日が来れば、また一つ年を取っていく。

                        忘れたいことは山ほどあるし、忘れたくないことも多い」

 辛かったこと、苦しかったこと、惨めだったこと、悔しかったことなど、忘れたいことは山ほどあった。でも、毎日がもしそんなことばかりだったら、生きてゆくことはできない。普段は苦しいことばかりに目を奪われてしまうけれど、冷静になって考えてみると、うれしかったことや感動したことなど、忘れたくないこともたしかにあったのだ。だからこそ、私も生きて来れた。

 おそらく泉谷しげるも、そういう経験をしてきたからこんな詩を書けたのだろう。後に私は教室でこの曲をかけて、そんな私の思いを語ったことがある。するとハラハラと涙を流した生徒がいた。それも、40人のクラスで3人も。いいんだよ、泣けばいい。この曲を聞いて泣ける人は私の、そして泉谷しげるの仲間だ。

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                                       霧の朝 


 今朝、外に出てみて驚いた。霧で周りが真っ白なのだ。4、50メートル離れたところにある神社の森は薄いシルエットにしか見えない。その手前にある家は、かろうじて窓があることが分かるのだが、これも全体としてみればシルエットだ。路地をはさんだ民家の壁は昔の焼板風に黒塗りされていて、それを背景に見ていると無数の細かい水滴が時には下向きに、時には斜め向きに落ちていくのが見えた。粉雨とでも呼ぶべきだろうか、こぬか雨より、霧雨より細かい。風もないのにその方向が気まぐれに変わるのが不思議だ。

 我が家はシラカシの生け垣で囲まれているのだが、白っぽい無彩色の世界の中で、目の前のシラカシの葉の緑色はなまめかしいほどに鮮やかだった。

 周辺はいつになく静かだ。霧は音も吸収するのだろうか。ただ、どこか遠くでカラスの鳴き声がする。そして、どこからかポクポクポクポクと木魚のような単調な音が聞こえてきた。でも、こんな音は今まで聞いたことがないし、この付近のお寺は浄土真宗だから木魚を叩くことはないはずだ。これは何の音か、どこから聞こえてくるのかを探ろうと思って門の外に出たのだが、やがてその音は途切れた。家の外の道はコンクリートで舗装されている。粉雨が絶え間なく降り注いでいるのだから、その道はしっとりと濡れているだろうと思っていたのだが、意外にもコンクリートは白っぽく乾いていた。

 私がタバコを吸っていると、犬の散歩をさせている女性がそばを通りかかった。彼女は私に軽く会釈をし、私も会釈を返したのだが、犬はまるで私が見えていないかのように私を無視して歩いていった。そして、犬と女性はやがて霧の路地に消えていったのだった。

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性交ということば  俗物国家  冤罪国家

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                                        天気予報・確率予報


 最近、天気予報がずいぶん正確になってきた。今の季節は日本付近を移動性の高気圧や低気圧が通る時期で、夏や冬に比べれば予報が難しいだろうと思うのだが、それでもよく当たる。数日前、「朝まで雨が残るが、通勤、通学の頃には雨が止んで、日中は晴れ、夕方から再び雨が降るだろう」という予報だったので、そこまで言っていいのだろうかと思ったのだが、実際その通りになった。おそらくスーパーコンピューターの威力だろう。

 今から50年ほど前、私が教師になった頃は予報が外れることが多く、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」にかけて、「当たるも天気予報、当たらぬも天気予報」ということばがあった。天気予報は占いみたいなものだったのだ。それに対して野球部の監督の先生は「天気予報はだいたい当たる。でも3、4時間は遅れてだ」と言っていた。外で練習できるかどうかが重大な関心事である野球部の先生なりの実感だったのだろう。

 雨が降るか降らないかの予報が難しいのはよく分かる。空気中にどれだけの水蒸気が含まれるか、それは水滴になる量か、その水滴は雨滴にまで成長するか、雨滴になったとしても、それが落下する途中で蒸発してしまわないか、そういうことは温度分布や風などの影響を複雑に受けるだろうからである。そんな中で正確な天気予報を出すコンピュータはすごいと思う。

 が、それと同時に不思議なこともある。雨は降るか降らないかのどちらかだから、予報が正確になれば降水確率は0%か100%にどんどん近づいていくはずなのに、最近でも30%、40%という中間的な数値が出されることが多いように思われる点だ。これはどうしてだろうか。私の錯覚なのだろうか?

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                                       身を切る改革? 


 統一地方選挙が始まって、「身を切る改革」をキャッチフレーズにする候補者が目に付くようになった。このことばは私の記憶では維新の会が使い始めたことばで、その後急速に各党に広まり、やがてテレビのMCやコメンテーターまで使うようになって、今や完全に市民権を得たように思われるのだが、私は大嫌いである。私がこのことばを嫌うのはそれが一般大衆への「ウケ狙い」のことばのように感じられるからだ。

 「身を切る改革」ということばには、「議員報酬の引き下げ」と「議員定数の削減」のふたつが含まれているようだ。政治家は従来からの特権を自ら削ってでも有権者に奉仕しようという自己犠牲のイメージが有権者に受けるのを狙ってのことだろうが、私には政治家がある程度の特権を持つのは当然で、その内容は自分達で決めるのだという尊大な感覚が裏にあるように思われるのだ。そうでないなら「身を削る」などと言う必要はない。

 政治家が本当に良い政治をしてくれるのなら、多少費用がかかってもよいと私は思っている。議員報酬の引き下げはともかく、議員定数をどれだけにするかは政治の質にも影響することで、定数を削減すれば少数意見の切り捨てにもつながりかねない。だから、議員定数は歳費がどれだけかかるかではなく、どうすれば民意が反映できるかで判断して欲しい。

 世界的にポピュリズムの危険が増大していると言われるが、ポピュリズムということばを私は「大衆追随主義」「大衆迎合主義」「大衆扇動主義」などと訳している。「身を切る改革」というのは、典型的な日本型ポピュリズムのことばだ。報道人や言論人まで当然の如く「身を切る改革」を言う現在は、危険な時代だと思う。

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                                      松本修さん(3) 


 朝日放送で「探偵ナイトスクープ」という番組を企画し、そのプロデュースを手がけた松本さんの最大のヒットは、アホやバカということばの分布調査から柳田國男の「方言周圏論」を実証したことだろう。その内容は新潮文庫の「全国アホバカ分布考」で読むことができる。私はもともと大衆社会の中にこそ歴史の本質を見るべきだと考えていたので、松本さんのこの業績は多いに評価したい。しかし同時に、この本の中には大衆迎合主義的な面も見られるのではないかとも感じているのだ。

 それは、アホ・バカに相当する沖縄のことば「フリムン」の語源に関する学説の多くが、これは「気の狂った人」つまり「気違い」という差別語だとしており、それを知った松本さんはショックを受けて、この調査を続ける気力さえもなくしたと書いているところだ。しかし、その後松本さん自身が「フリムン」の語源は「惚れ者」つまり、「頭がボーとなった人」ではないかと気づいて、音韻学的な考察や専門家の話からそれを確信し、差別語が語源でなかったことに安堵したという。

 たしかに現在では「気違い」ということばは差別語であり、使うべきでないと私も思うが、歴史的にもそうだろうか。沖縄にはシャーマニズムの歴史があり、「気違い」ということばが異界と交信できる優れた能力の持ち主として尊敬の念をもって使われていたかもしれないと思うのだが、そうした可能性を考えずに現在の感覚で割り切ってもいいものだろうか。それに「気の触れた人」は差別だが、「頭のボーっとした人」が差別でないというのも、わからない。差別を嫌悪するのは当然だが、私には松本さんが放送関係者独特の意識で、一般大衆の反差別感情に迎合していたように思われたのである。

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                                      松の花 


    句作して 松の花咲く 春を知る


 これは10年ほど前、私が俳句を始めた頃に詠んだ句である。このとき、私は松がこんなにもきれいな花をつけるのか、こんなきれいな花に気づけたのは俳句を作り始めた効用だと感動してこの句を詠んだのだった。俳句だけではなく、その少し前に始めた写真の効用もあったのかもしれない。

 私はもともと野に咲く花を見るが好きだった。そして、春には松も花をつけることは知っていたし、実際に何度も見たことがあった。でも、松は風媒花だから、受粉のために昆虫を呼び寄せる必要のある被子植物のような鮮やかな花をつけることはないという思い込みがあって、じっくりと松の花を見ることがなく、その美しさにも気づいていなかったのだろう。私の感性のアンテナが閉じていたのである。

 松の花に関しては、もう一つ感動的な思い出がある。数年前、びわ湖岸を散歩していた時のことだ。数百メートル先の松林のあたりが白っぽい霧のようなものに包まれていたのである。私は最初、誰かがそのあたりでたき火をしているのだろうと思った。ところが、そこまで行ってみると、そんな気配は全くない。さっき見たあの霧は一体何だったんだろうと考えて、ふと気づいたのは、この松林から大量の花粉が放出されて、それが霧のように見えたのではないかということだ。それなら、もっとたびたびそんな光景を目にしていたはずだとも思ったが、たとえば太陽光線の微妙な角度の関係などで見えたり見えなかったりするのかもしれない。確信はないが、もしあれが花粉だったとすれば、すごいことだ。


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                                       思い出のアルバム 


 少し離れたところに住む私の孫がこども園を卒園したということで、卒園式の動画が送られてきた。その中では、特に卒園証書をもらいに行くときの緊張した姿がほほえましかった。まるでロボットのように体をガチガチにして歩き、証書をもらって形通りの礼をし、そしてあらかじめ決められた遠回りの経路を通って自分の席に戻る。その緊張ぶりは、まるで数十年前の卒園式を見ているかのようだった。私はその動画のお礼に「思い出のアルバム」という歌を送った。

 「一年中を思い出してご覧。あんなこと、こんなことあったでしょう。桃のお花もきれいに咲いて、もうすぐみんなは一年生」と歌うこの歌は、私の大好きな歌だ。この歌を聞くと、私自身が子育てをしていた頃、こどもがここまで育ったという感慨を持って卒園式を迎えたことを思い出して、胸が締め付けられるような思いがする。私が企画・制作して地元のラジオ局から放送している音楽番組でも、何度もこの歌を放送した。

 私が子育てをしていた頃から、もう30年以上が過ぎたのだ。そして、今は私のこどもが父親になって30年前の私と同じ経験をしている。そう思うと、ひとしおの感慨を覚えるのである。30年という年月が確かに過ぎたのだという思いと、成長した孫がもう卒園するということに30年前と同じ感動を覚えているのだ。それらふたつの思いが私の中で矛盾なく同居している。

 30年前、私は仕事があってこどもの卒園式に出られなかったが、私の妻は卒園式に出てそこで「思い出のアルバム」の曲がかかっていたのを覚えているという。この曲に歌われているように、私の孫もやがて1年生になる。これから広い、大きな世界へ船出するのだ。

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                                       嘉田由紀子さん(2) 


 職員研修会で初めて嘉田さんを見た私が、次に嘉田さんを見たのは2006年、テレビのニュースでだった。嘉田さんは「もったいない」をキャッチフレーズに新幹線栗東新駅反対を掲げて県知事選挙に立候補したのだ。当時、栗東に新駅を誘致しようという動きがあったのだが、京都のすぐ近くに駅を作っても意味がないと私も思っていたので、嘉田さんの主張に大賛成だった。それにしても、びわ湖研究所の職員に過ぎなかった嘉田さんは泡沫候補に過ぎないのではないかと私は危惧した。

 でも、そうではなかった。嘉田さんは研究所時代に県内全域を巡って住民から信頼感を得ていたので、住民パワーに支えられて当選した。そして、持ち前のリーダーシップを発揮して、穏健に新駅を中止へと導いた。さらにびわ湖の環境を重視し、福島原発の事故後には万一福井県の原発が事故を起こした場合の放射能の拡散を予測する県独自のシステムを完成させた。これは国のSPEEDIシステムの出し惜しみに対する対応で、その大胆さ、手際の良さは武村県政を彷彿とさせた。

 嘉田さんは県知事時代に私の勤務する高校に来られたことがあって、私はその時初めて嘉田さんと言葉を交わした結果、ますます彼女に好感を覚えた。そんな関係もあって、後に私が放送番組を作るようになったとき、嘉田さんにインタビューを申し込んだ。すると彼女は気軽に受けてくれて、朝10時から夕方6時まで長時間インタビューが実現した。これらのすべては彼女の人間性の表れだったと思う。

 今、彼女は参議院議員である。しかし単なる参議院議員で終わってはならない。大胆な発想と持ち前の行動力で政治の世界に新風を吹き込んで欲しいものだ。

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                                      嘉田由紀子さん(1) 


 私が初めて嘉田由紀子さんを見たのは1990年前後だったと思う。そう、「会った」ではなく「見た」である。私の勤めていた滋賀県立高校の職員研修会で、びわ湖研究所研究員の嘉田さんが講演されたのである。私は嘉田さんに対して「清楚な美人だな」と好感を持った。でも、美人というだけなら他にもいたはずだ。そんな中で私の中に嘉田さんの印象が強く残ったのは、彼女が自立した芯の強い女性だと感じられたからだろう。

 嘉田さんは埼玉県の旧地主の家に生まれた。戦後の農地改革で家は貧しくなったのに、おじいさんもお父さんも地主の頃の生活を改められず、野良仕事は病弱な母親に押しつけられたという。嘉田さんは幼い頃から母親とともに野良仕事で畑に出て、お母さんからいろんなことを教えられたのだそうだ。その効果もあったのだろうか、進学校に進んだ嘉田さんは成績がトップでリーダーシップにも優れていたので、生徒会長を務めたという。

 嘉田さんが大学を受験したのは1969年、東大の入試が中止になった年で、彼女は京大農学部を受けて合格した。農学部という選択には母親の影響もあったかもしれないが、京大を選んだのは京大に「探検部」があって、その関係者が民俗学の調査などで成果を上げていたからだった。小田実の「何でも見てやろう」を読んで、外国のまだ見ぬ土地、まだ見ぬ人々に興味を持っていた嘉田さんの大学入学の目的は「探検部」だったのだ。

 ところが当時の京大探検部は女人禁制だった。それに怒りを覚えた嘉田さんは、猛烈に抗議してついに部の規則を改めさせ、探検部への入部を果たす。そしてその一員としてアフリカの農村を調査する目的で、約半年間、たった一人でタンザニア暮らしをしたのである。

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                                       リアルな防衛論議を 


 ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮によるミサイル発射、中国の海軍力増強などを受けて、日本も防衛力を増強すべきだという認識が国民に浸透しつつある。その具体的内容として、敵基地攻撃能力とか、反撃能力ということも言われているが、どちらも具体的な戦闘状況を想定しないまま、「やられる前にやっつけろ」とか「やられたらやり返せ」というような情緒的な論議に終始しているように思われる。

 たとえば、敵基地攻撃能力という場合、ミサイルはどこかの地上基地から発射されるという前提に立っているように思われるのだが、潜水艦から発射される巡航ミサイルにはどう対処するのか。まず第1に潜水艦の位置を探知するのが難しいし、その潜水艦がミサイル発射を準備しているかどうかも分からない。そしてその潜水艦を攻撃する方法もない。しかも、近海から発射された巡航ミサイルは秒単位で着弾するのだ。

 さらに、軍備増強論者の多くが原発推進論者なのも奇妙な点だ。もし海岸沿いの原発がミサイルで破壊されたらその放射能は日本全土に広がる。その危険は福島原発の事故で誰もが理解しているはずなのに、この問題は論議されていない。実際に原発が攻撃されなくても、「原発を攻撃するぞ」と脅かされれば、戦わずしてギブアップするしかないのに、である。

 もしかしたら原発はミサイルにも耐えられるほど頑丈に作られているというのかもしれないが、それは違う。仮に原子炉本体はそれくらい頑丈だったとしても、コントロールルームや送・受電設備、冷却水の取水口が破壊されれば、原子炉は暴走して大事故になる。そういうことすら理解しない防衛論議は論議と呼ぶに値しない。

3月の記事

マイナ制度     マスク美人      私の憲法改正論      私の死刑廃止論    

きせつだより    にわとりの殺処分   もののみえかた  奇想天外な夢 

春に浮かれて   事故多発地点      春が来た    アイドリングストップ 

ペテルギウス  安倍元首相の責任(1)  安倍元首相の責任(2)

井戸謙一さん  山野稔さん      松本修さん(1)  松本修さん(2)

性交ということば  俗物国家  冤罪国家

霧の朝   思い出のアルバム        3月は工事月間     嘉田由紀子さん(1)   

嘉田由紀子さん(2)    老いてその先   身を切る改革?  松本修さん(3)    

天気予報、確率予報     リアルな防衛論議を     里帰り    松の花


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                                     3月は工事月間 


 車を運転する人ならたいてい感じていることだろうが、3月はあちこちでやたらと道路工事が多い。国道を走っていても県道を走っていても、道路工事のために片側通行になっていてイライラしながら待たされることがある。なぜ、3月はこんなに工事が多いのだろうか。

 これは私の推測だが、3月で会計年度が終わるので予定されていながら着工できていなかった工事を何とか年度内に終わらせようとして、工事が集中するのだろう。予算は年度をまたいで持ち越すことができないので、4月になると予算の執行ができなくなるのだ。中には予算が余ったから、当初予定になかった工事が急遽組み込まれたというケースもあるのかもしれない。

 私が高校の教員をしていた頃、学校に実験実習費というものがあった。これは主に理科や家庭科の実習に使う経費で、年度当初にまず理科と家庭科で配分比率を決め、次に理科の中で物理、化学、生物、地学の各科目に分配される。こうして配分された経費は年度内に使わなければならないので、年明けから買い物が増える。もちろん予算を返納することもできるが、予算は実績主義で配分されるので、返納すると翌年度からの配分が減らされることになり、無駄な買い物でもしてしまうのだ。

 こんなことは不合理なので過去の実績などと関係なく、本当に必要な時、必要な科に、必要な予算を付けられるようにできないものかと私などは思ったりもしたが、それをしようとすると学校内に予算の配分を牛耳るボスが生まれかねない。だから多少の無駄は校内の民主主義を保つ経費だと考えることにした。学校内の無駄はせいぜい数万円だが、公共事業となれば、何百万何千万になるのかもしれない。でも、それも経費なのだ。

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春に浮かれて   事故多発地点      春が来た    アイドリングストップ 

ペテルギウス  安倍元首相の責任(1)  安倍元首相の責任(2)

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性交ということば  俗物国家  冤罪国家

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2023/03/21

                人声私語23について


 人声私語23は、私の生活実感や、政治、社会、文化に関する私の思いを、725文字以内の文章で日記風に書いたものですが、日記風とは言っても他人に読んでもらうことを意図しています。「人声私語」というネーミングは、朝日新聞の「天声人語」をもじったものですが、私には「天声人語」は上から目線の文章と感じられますので、それに対抗してあくまでも1個人としての立場から社会を見つめる水平目線の文章にしたいとの思いを込めたものです。

 私は、1994年から95年にかけて同様の趣旨で「人声私語」という文章を書きました。これは全部で約700編あり、いずれ公開したいと考えていますが、さしあたり現在はその中から約100編を選んでテーマ別に分類し、「人生私語ダイジェスト」というページで公開しています。また、そのトップページでは「人声私語」を書いた当時の社会や私個人の状況をやや詳しく書いていますので、こちらの方もご覧下さい。


       人声私語 目次


1月の記事


あれから30年   様変わり   テレビがうるさい   私の大失敗

犬を飼う資格    最後の犬   盗まれた金魚   スズメのお宿  雪のない冬

世界に一つだけの花 ねえねえ症候群   生命保守派  NATOの責任

サントスの脅威  火災報知器が~   これが俳句か?   月は東へ火星は西へ

ほめて殺す      大丈夫です        漫才CMは嫌い     チコちゃんを叱る

武村正義さん   栗本英世さん(1)~(4)       


2月の記事


データが出てこない  特殊詐欺(1)   特殊詐欺(2)    キラキラネーム 

怖い夢   誇らしい夢(1)  誇らしい夢(2)  エッチな夢    夢日記     

「平年」ということば 「根明け」の理由   孔子の述懐    私の夫婦同姓論

「解散命令」とは何か オフレコ破り   こどもたちの声   タモリの言語感覚

なぜ「タイ人男女」? バカなドライバー  ベンチカット   異次元の少子化対策

一色主義     逸失利益という差別   弓を引くヘラクレス  月冴えて

ふしぎな夢を見た   私は女性差別主義者?  自己責任   小さくても幸せな国

笑いを欲しがる人  身構えないで  素直なボク   特別軍事作戦と報償

味オンチの理由


3月の記事


マイナ制度     マスク美人     私の憲法改正論   私の死刑廃止論

春が来た      春に浮かれて    きせつだより    にわとりの殺処分

もののみえかた   奇想天外な夢    事故多発地点      アイドリングストップ

ペテルギウス    安部元首相の責任(1)    安部元首相の責任(2)

井戸謙一さん   山野稔さん  松本修さん(1)  松本修さん(2)

性交という言葉  俗物国家  冤罪国家


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         3月の記事 


マイナ制度      …  国民総背番号制がいとも簡単に実現した

マスク美人      …  マスクをしていると女性はきれいに見える

私の憲法改正論    …  憲法を改正するのは法の支配を確立するためだ

私の死刑廃止論    …  刑罰は復讐ではない 死刑は国家による人権侵害だ

きせつだより     …  私は小学校の先生のおかげで自然が好きになった

にわとりの殺処分   …  鳥インフルで1500万羽のニワトリが殺された

もののみえかた    …  斜めからの光線でも、丸いものの影は丸く映る

奇想天外な夢     …  川が上層と下層に分かれているという奇妙な夢

春に浮かれて     …  カメラを持って春の野原に出てみた

事故多発地点     …  30年に1回の事故でも、事故多発地点?

春が来た       …  私は無数の羽虫を見て春の訪れを感じた

アイドリングストップ …  アイドリングストップに意味があるのだろうか

ペテルギウス     …  赤色巨星ペテルギウスはやがて超新星爆発をするという

安倍元首相の責任(1)…  拉致被害者を取り戻せなかった責任は安倍さんにもある

安倍元首相の責任(2)…  北朝鮮を傍若無人に振る舞わせた責任は安倍さんにもある

井戸謙一さん     … 「十人の真犯人を逃しても一人の無辜を罰してはならない」

山野稔さん      …  シグマックスの山野さんは高校の頃から才能を見せていた

松本修さん(1)   …  高校の頃の松本修さんは明るく行動的な秀才だった

松本修さん(2)   …  テレビプロデューサー松本修さんの「全国アホバカ分布考」

性交ということば   …  性交という言葉は、幸せな「性の交わり」であって欲しい

俗物国家       …  自民党の統一教会汚染は、彼らが俗物だからだ

冤罪国家       …  日本の国家や社会に冤罪を生む土壌がある 

霧の朝          …  朝、家の外に出てみると真っ白い霧の世界だった

思い出のアルバム         …  私の孫が幼稚園を卒園して、私の子育ての頃を思い出した

3月は工事月間      …  3月にやたらと道路工事が増えるのは …… 。

嘉田由紀子さん(1)   …  私は教員研修会で嘉田さんに会って、強い印象を受けた。

嘉田由紀子さん(2)   …  私は嘉田さんにラジオ番組のインタビューをした。

老いてその先       …  老いるということは老醜をさらすことでもある。

身を切る改革?      …  私は「身を切る改革」を売り物にする政治家が嫌いだ。

松本修さん(3)     …  「全国アホバカ分布考」で私が気になること。

天気予報、確率予報    …  天気予報はすごく正確になった。けれど …… 。

リアルな防衛論議を    …  勇ましい防衛論議で抜け落ちているのは …… 。

里帰り          …  うららかな春の日射しは待ちわびた顔に照りつける。

松の花          …  私は写真を撮り俳句を作ることで松の花の美しさを知った。


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              冤罪国家 


 最近、相次いで日野町事件、袴田事件の再審開始が決まった。どちらも喜ばしいことには違いないが、日野町事件の被告は無実の罪を背負わされたまま亡くなっているし、袴田事件の被告は拘禁反応のため正常な思考力を失っている。余りにも痛ましい結末である。…なぜ彼らが冤罪を背負わねばならなかったのか? それは日本の司法システムの中にも世論形成システムの中にも冤罪を生み出す要因が内在しているからだと私は思う。

 まず、司法システムだ。日野町事件でも袴田事件でも捜査関係者による証拠の捏造が疑われているが、それはほぼ確かだろう。ではなぜ証拠の捏造が行われるのか。それは、それは事件の解明自体よりも容疑者を起訴まで持ち込むことが捜査担当者、あるいは操作チームの成果だとする成果主義からではあるまいか。その結果、自分達に不都合な事実は無視し、チームの中で異論を差し挟むことは控えて、チームの、あるいは上司の描いたストーリーに従って証拠を整えようという心理になるのだろう。それが行き過ぎると、証拠の捏造になるのだ。

 社会のシステムで問題なのは、警察のリークをそのまま大々的に報道するマスコミと、まるでエンタテインメントか何かのように興味本位で犯罪報道に群がり、「悪い奴はやっつけろ!」と叫ぶ日本国民である。これはマスコミにも国民にも人権意識が欠如していることや、その前提としての弱い者への想像力が欠如していることの結果であるに違いない。

 戦前、特攻警察が傍若無人に振る舞い、マスコミはそれに目をつぶって大々的に日本軍の戦果を喧伝し、一般大衆は日の丸を振りかざしてそれを支持した。その構造が今もなお変わっていないように思われるのだ。

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              俗物国家 


 日本には本当の意味での政治家がいなくなりつつあるのではないかと思う。本当の政治家というのは日本や世界のあるべき姿についての自分なりの信念を持って政治に携わる政治家ということだ。私は一人一人の政治家を評価するほどの情報を持っているわけではないが、国会でも地方議会でも二世議員が増えていることからしても、政治家の主要な関心事は日本や世界のことではなく、自分の利害得失になっているのは確かだと思う。

 それを劇的にさらけ出したのが、昨年の統一教会問題である。鈴木エイト氏の著書によれば、統一教会と関係を持っている現職国会議員は168人に及ぶという。自民党に限れば、衆議院議員276人中103人が、参議院議員119人中29人に及ぶ。それも単なる友好関係などではなかった。実際、独力では当選がおぼつかなかった某参議院議員は安倍元首相の口利きで統一教会から8万票(彼の総得票数14万票の過半数)を回してもらって、当選したというのである。

 ところで、統一教会によれば、エヴァ国である日本の国民は過去の侵略戦争の贖罪をもこめて統一教会に献金しなければならないのだという。こんな教義が自民党を支える日本会議や神道政治連盟の考え方と両立するはずはなかった。ところが、安倍元首相をはじめとして多くの自民党議員はその両方と関係を持っていたのだ。

 その裏には議員達の不勉強もあっただろう。それ自体が議員としての資格を疑わせることだが、それよりも、政治思想などは二の次で、ともかく議員という自分の立場を維持し、議員としての権力を振るっていたいというのが本音の俗物だったということだろう。そして、そういう議員を選んだのは、これも俗物の有権者なのだ。

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              性交という言葉 


 最近、「強制性交」という法律用語が「不同意性交」と変更になるというニュースがある。私は強制性交という言葉にも違和感があったが、不同意性交という言葉にはより強い違和感がある。こんな言い方よりも、昔のように「強姦」という方がいいと思ったりもする。

 私がなぜ、強制性交や不同意性交という言葉に違和感を感じるのか。それはこれらの言葉に「性交」という単語が含まれているからである。性交という言葉に法的な、または慣用的な定義があるのかどうかは知らないが素直に読めば「性的な交わり」ということになろう。そして「交わる」というのは、たとえば2直線が交わるという場合のように、両方から寄り添っていって、ついに交叉するということだと思う。だから、男性、女性の両方が寄り添っていった結果でなければ「交わり」とか「性交」などと呼ぶべきではないと思うのだ。  

 そして「不同意性交」という言葉に感じる違和感は「同意」という言葉の曖昧さに起因する。たとえば、男性が力ずくで女性に性行為をした場合は当然「不同意」だろうが、精神的な束縛や飲酒などによる判断力喪失状態の場合はどうかという問題だ。つまり、相手が性行為自体を拒まなかったとしても、それはただちに「同意」を意味しないはずだが、「不同意」とも言えまい。

 それに対して「強姦」ということばには、邪悪な行為という印象がある。だから私は「強姦」の方がよいと思うのだが、もし「姦」ということばを使うべきでないなら「性的暴行」でよいと思う。本来、「性交」というのは二人にとって最高の行為だし、そうであるべきだ。暴力や社会的な強制力によって行われる性的暴力に「性交」ということばを使うのは不適当だと思うのである。

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              松本修さん(2) 


 高校時代、抜群の成績でクラスの人気者でもあった松本君は京大の法学部に進んだ。でも、活発な松本君が法律書に囲まれている姿は私には想像できなかった。だから、なぜ法学部を選んだのか聞いてみたい気もしたのだが、在学中は一度も彼と接触する機会がなかった。そして彼が放送局に入社してテレビディレクターをしていると聞いたのは大学を卒業してしばらく後のことだった。

 彼はラブアタックという人気番組を作っていたのだが、その番組には彼が大学時代に交流していた多くの大学の若者が出演していたそうで、なるほどそれならと納得したものだった。そしてこの番組では魅力的な女性を「かぐや姫」と名付けていたのだが、これはまさに松本君のセンスだと思った。そしてその次の「探偵ナイトスクープ」では、スタジオのセットをシャーロック・ホームズの事務所に似せて、19世紀の英国調にしたというのだが、これも松本君らしいアイデアだった。

 松本君自身が企画・制作したこの番組では数々の名作が生まれたが、最大のヒットは近畿地方では「アホ」と言い、関東では「バカ」というその言葉の境界がどこにあるかを探るという企画だった。視聴者や教育委員会を対象とする調査でそれを探るうちに、「アホ」や「バカ」だけでなく、「タワケ」や「ホンジナシ」などの言い方があって、それらは京都を中心に同心円状に分布していることを見いだしたのである。これは「方言は京都で生まれた都ことばが時間をかけて地方に伝わってきたものだ」という柳田國男の「方言周圏論」を実証したものだと彼は考えて、「全国アホバカ分布考」という本を書いた。それは、大衆の中に物事の核心を見ようとするもので、まさに松本君の本領を発揮したものであった。

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              松本修さん(1) 


 松本修さんというのは、朝日放送で「探偵ナイトスクープ」という番組を企画し、長年そのプロデューサーを務めてきた人だが、私の高校時代の同級生である。

 彼はクラスで一番の秀才だったが、私が最初に彼を意識したのは入学して間もない頃の英語の授業でのことである。先生がテキストの一節にあったasを指して「この品詞は何ですか」と問うたのである。私は当然前置詞だと考えた。ところが松本君は「関係代名詞です」と答え、それが正解だったのである。彼がなぜそんなことを知っていたのかわからないが、私にはasが関係代名詞として使われることなど、思いもよらなかった。

 こんなふうに、彼はクラスでトップの成績だったが、それを鼻にかけるようなこともなく、気さくで明るい性格だったのでクラスの誰からも好かれていた。そんな彼は時々「ああ、官能がうずく!」と奇声を発していたものだ。彼がどういう意味でこれを言っていたのかは知らないが、普通の言葉で言えば「ああ、セックスしたい!」ということになり、普通ならこんなことを言う男の子は女の子達から気味悪がられるのだろう。でも彼の場合は持ち前の明るさから、そのようなことはなかった。

 彼は行動力も抜群だった。私たちは2年生の3月に九州へ修学旅行に行ったのだが、このとき乗ったのは宮崎交通の観光バスだった。当時、宮崎交通のガイドさんはガイドが巧みで、全国コンテストでも度々優勝していたそうだが、私たちのガイドさんもガイドがうまく親しみやすい人柄で、クラスの男子の憧れの的になって、最後は涙の別れをした。でも普通はそれだけで終わるところを、松本君は旅行から帰った後、もう一度ガイドさんに会おうと、一人で九州まで行ったのだった。

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              山野稔さん 


 先日、私は「この人に会いたい」というラジオ番組の取材のために、シグマックスという会社の山野稔さんを訪ねた。山野さんの会社は工場などの高温の環境下でも使えるセラミックス製のバーコードラベルを作っていて、世界中の有名企業と取引関係がある。セラミックスを使ったバーコードラベルというのは山野さんの着想で、それを実現させたのは山野さんの技術力だった。

 ところで、この山野さん、実は私の高校時代の同級生なのである。理系科目が得意だった山野さんは高校で物理実験同好会というのを作っていて、私もそれに加えてもらっていたのだ。このグループはロケットを作って飛ばしたり、様々な物理実験を行ったりしていたが、その中で私が忘れられないできごとがあった。

 ある時、私たちは時間を精密に測定すべき実験をした。時間を計るにはストップウォッチがあるが、それでは誤差が大きすぎる。そこで彼が考案したのは、フェノールフタレンを加えた食塩水で湿らせた布の上で、交流電圧をかけた二本の金属棒をスライドさせるという方法であった。こうすると負極の金属棒の周囲に水酸化ナトリウムができるので、電極がマイナスになるたびに赤い斑点ができて、それが点々と連なるのである。電極は60分の1秒ごとに正負が入れ替わるので、赤い斑点の数を数えれば120分の1秒単位で時間を測定できるのだ。

 私も食塩水の電気分解については知っていた。でも、それは試験のために暗記した知識に過ぎず、まさか時間を計るためにそれが応用できるなどとは思ってもみなかった。私も物理は得意科目ではあったが、このときは完全に山野君に負けたと思った。そういう山野君の天才がシグマックスを成功させたのだろうと思う。

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              井戸謙一さん 


 「十人の真犯人を逃しても、一人の無辜(罪のない人)を罰してはならない」。これは裁判官が心すべき格言だそうである。私がラジオ番組のインタビューのために井戸謙一さんを訪ねた時、最初に井戸さんの口から出たのがこのことばだった。井戸さんは十年ほど前に裁判官を退官して、現在は私の住む彦根市内で弁護士事務所を開いているが、裁判官時代は志賀原発の運転差し止め判決などいくつもの有名な判決を下し、弁護士になってからは弁護団長として湖東記念病院事件の再審を実現するなど、めざましい実績を残している。

 私は井戸さんに会う前は、裁判官というのは法律には詳しくても現実社会の実情には疎い、官僚主義的な人たちだろうと勝手に思い込んでいた。ところが井戸さんに会ったことによって、そのような思いは吹き飛んだ。それもそのはず、井戸さんが裁判官の道を歩むことになったきっかけは中学生の頃、部落差別の存在を知って社会正義の意識に燃えたことだったという。そして、裁判官になってからは最初の任地が関西だったのが幸いしたと井戸さんは言う。というのは、関東の裁判官社会は官僚主義的、秩序主義的だけれど、関西には自由な雰囲気があり、自分がそんな中で若い時代を過ごせたのは幸いだったというのだ。

 私が「マスコミは興味本位で事件を扱い、犯人を叩くのは当然だと思っているようだが、犯罪報道は自粛すべきだ」と言ったところ、井戸さんも同意してくれた。私はさらに「犯罪被害者の肉親が犯人を死刑にして欲しいと言うのは分かるけれど、マスコミはそんなことを報道すべきじゃない」と言いたかった。それは言わなかったが、言えばこれも同意してくれたのではないかと思う。

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              安倍もと首相の責任(2) 


 安倍元首相の責任(1)で書いたように、北朝鮮拉致被害者の救出交渉をぶちこわしたのは安倍元首相だった。ところが彼はそれを反省するどころか、逆に拉致被害者に同情する国民感情を煽って対北朝鮮強硬論を主導し、それを自分への支持につなげたのである。彼らは「制裁」「制裁」と叫んでいたが、国交もない北朝鮮に対しては有効な制裁手段がないことを彼も知っていたはずだ。

 もうひとつ彼が犯した重大な過ちは、北朝鮮の核爆弾やミサイルの開発を加速させたことである。小泉訪朝団が北朝鮮へ行くことができたのは、それに先立つ1990年代、北朝鮮に独自の核開発を思いとどまることと引き替えに日本、韓国、アメリカが協力して北朝鮮に原発の軽水炉を供与しようというKEDOの取り組みがあったからである。その試み自体は成功しなかったが、その交渉過程で交渉のチャンネルが形成されていてそれが生きたからであろう。

 そしてこの頃、北朝鮮は経済的に追い込まれていた。だからこのとき、当初の予定通り北朝鮮に大規模な経済援助を約束していれば、北朝鮮は日本を頼るようになり、両国の関係は強化されて、拉致問題の解決も容易になっただろうし、KEDOを復活させて北朝鮮の核開発を送らせることができた可能性もある。仮にそれがうまくいかなかったとしても、日本側は多様な制裁手段を手に入れることで、交渉を有利に進められただろう。

 それだけではない。このとき北朝鮮と国交正常化まで関係を進めておけば、日本は経済的な優位性を利用して北朝鮮への影響力を確立できたはずだ。そうすれば中国やロシアと北朝鮮の間にくさびを打ち込むことができただろう。その千載一遇のチャンスを逃したのである。

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                                        安倍もと首相の責任(1) 


 今日に至るまで、北朝鮮による拉致被害者の帰国は実現していないが、その最大の責任者は問題の解決を妨げた安倍元首相だと私は考えている。単に拉致被害者の問題だけではない。北朝鮮で多数の餓死者が出ている問題や、それにもかかわらず金正恩(キム・ジョンウン)が独裁政治を強化して原爆やミサイルの開発を進めていることもまた安倍元首相の責任だと考えている。

 2002年、小泉首相が金正日(キム・ジョンイル)に拉致を認めさせ、5人の被害者の一時帰国を実現させることができたのは、彼が金正日に拉致被害者を帰国させれば多額の経済支援をすると約束したからだった。拉致などということは国家の体面に関わることで、北朝鮮としては絶対に認められないはずだったのに金正日が小泉首相の提案に乗ったのは、北朝鮮がそれだけ経済的に行き詰まっていたからだろう。その結果北朝鮮は「一時帰国」という条件付で被害者を帰国させた。

 それが「一時帰国」にすぎないことは、当初政府も認めていたし、新聞でもテレビでもそのように報道されていた。そのことは小泉訪朝団の一員として訪朝していた安倍元首相も充分理解していたはずである。ところが被害者の家族会が5人をいったん北朝鮮に返すことに反対すると、安倍元首相もそれを支援する側に回って、帰国した5人を日本に留め置くことを主張し、それによって政府の方針も転換した。それは日本が国家間の約束事を一方的に破ったことを意味し、当然ながら北朝鮮は激しく反発してその後の交渉が進展しなくなったばかりか、交渉のチャンネル自体が失われた。5人がそれで救われたことは間違いないが、それと引き替えに他の拉致被害者が見捨てられる結果になったのである。

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