特殊詐欺(1)
もう、20年以上も前のことだ。東京の準公的機関を名乗る団体からハガキが届いた。私の利用料金未払いに関する訴えがインターネット接続業者から裁判所に出されたというのだ。このまま放置すれば相手の言い分がそのまま認められて、私は差し押さえ処分を受けることになるという。その団体は正式な裁判の前に、あらかじめ調停をする機関だとのことで、プライバシーを守るためにハガキには具体的なことが書けないので電話で説明するからと、連絡先の電話番号が書かれていた。
そのハガキを見て私は慌てて、すぐ電話しようと思った。現在ならこの手の連絡は特殊詐欺だと誰もが思うだろうが、当時はまだそういうことは一般的ではなく、もちろん特殊詐欺という言葉もなかったと思う。
しかし、考えてみても、私には何の心当たりもなかった。それによく読んでみるとそのハガキには不自然な点がいくつもあったのだ。たとえば、「裁判所から通知があった場合は、出頭していただくようお願い申し上げます」などとバカていねいなことば使いなのだが、行政文書にそのような表現はあり得ない。「出頭してください」と、指示口調になるはずだ。
これは詐欺に違いないと私は確信した。そこでこれを生徒達にこの種の詐欺への注意を促す教材にしようと思ったのだ。私はこのハガキを印刷して、当時私が勤めていた高校で生徒たちに配った。そして「この文面で不自然な点を見つけなさい」と言ったのだ。残念なことに、生徒はなかなか見つけられなかったが、私が説明するとそれなりに納得してくれた。当時、私は理科を教えていたのだが、期せずして国語や社会の授業をすることになったのである。詐欺を見破るには国語や社会の知識も有効なのである。
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