ベンチカット
私の住んでいる彦根から直線距離で10キロほどのところに伊吹山という山がある。百人一首の「かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを」という歌に歌われている山で、古事記にもヤマトタケルの終焉の地として登場する。古代にはいくつもの山岳寺院が建てられ、中世にはそれらが山城として使われた。滋賀県内の最高峰で、その美しい姿は県内外の約50校の小、中、高の校歌に歌われているそうだ。
この山は全体が石灰岩でできているので、山を切り崩せば、それが即セメントの原料になる。というわけでこの山で石灰岩の採掘が行われている。その採掘方法はベンチカットと呼ばれる工法で、山の中腹に水平に切れ目を入れてそれより上の石灰岩を削り取るのである。こうすると三角錐状のくぼみができるが、鉱石を切り取る水平面を徐々に下げていくと、くぼみがどんどん大きくなる。そのとき、下部の水平面がイスの座る面のように見え、背後の山体がイスの背もたれのように見えて、遠目には巨人の座るイスのような形になるのだ。
こんなふうにして、約70年の石灰岩採掘の結果、山の形は大きく変わった。現在は一頃よりも採掘量は減っているらしいが、このままではやがて山全体が消滅しかねないとも思う。そんなことが許されるのだろうか。
法律的にはどうなのかと何人かに聞いてみたが、よく分からないという。山のそれぞれの部分には地権者がいるはずだが、その権利がどれだけの深さにまで及ぶのか分はからない。また、鉱山を運営している会社や、鉱山で働く地元の人々の権利がどう保証されるべきなのかも分からない。経済的な利益と景観、歴史的な価値、地元の人の山の愛着などをどう調整すべきなのだろうか?
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