特別軍事作戦と報償
ある本を読んでいて、私はこれまで「報償」ということばを勘違いしていたことを知った。これまで「ホウショウ」というのは「ごほうび」のことだと思っていたのだが、それは「報奨」か「褒賞」で、報償と書くのは「つぐない」や「埋め合わせ」のことだという。
1937年、廬溝橋事件をきっかけに日中戦争が起こるのであるが、当時の日本軍はその軍事作戦に関して「今次事変は戦争にあらずして報償なり。報償のための軍事行動は国際慣例の認むるところなり」と言っていたのだという。つまり、中国側が悪いことをしたので、それを懲らしめるために相手を攻撃しているのであって、戦争を仕掛けたわけではないというのだ。
これを読んで私がすぐに思い出したのは、ロシアのプーチン大統領が長い間ウクライナに侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいて、戦争とは認めていなかったことである。ウクライナの領土内でロシア系の住民が圧迫されているから、あるいはネオナチが台頭しているからそれを懲らしめるための限定的な軍事作戦だというわけだ。ウクライナを占領するのが目的ではないからこれは「戦争」ではないと言いたかったのだろう。
しかし、過去の日本も現在のロシアも他国の領土に軍隊を送り込んでいるのだから、それは侵略であり戦争だ。太平洋戦争開戦後、日本は過去に遡って「大東亜戦争」と呼ぶようになり、過去の軍事行動も戦争だったと認めた。そしてその後に敗戦を迎えたのだが、ロシアの場合はどうだろうか。他国の主権を侵しながらそれを「報償」と呼ぶがごとき尊大な振る舞いを許してはならない。「尊大」というのが不適切だとしたら、「国家主権」という国際秩序の根幹についての浅慮といってもよい。
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