裁判員制度反対(1)
昔、高校で「12人の怒れる男たち」という演劇(もとは、アメリカ映画)を鑑賞して、その感想を話し合うという授業が行われたことがある。この芝居はスラム街で育った少年が親を殺したとして起訴され、12人の陪審員が有罪か無罪かを話し合うというものだった。アメリカの裁判では陪審員は被告が有罪か無罪かのみを判定するのだが、その評決は全員一致でなければ下せない。
最初は目撃証言からも、物的証拠からも、状況証拠からも少年の有罪は明白だと思われた。だからほとんどの陪審員は早く有罪の評決を出して、早く評議を終わらせたいと苛立っていた。ところが一人、証言の些細な矛盾に気づいた陪審員がいて、有罪と断定できないと言い出したのだ。そして彼が証言の矛盾を突いていくうちに有罪とする論拠が次々に崩れていき、一人、また一人と判断をひるがえす者が出て、最後は全員一致で無罪の評決を出すという筋立てである。
この演劇鑑賞は同和教育の一環として行われ、これを企画した先生は、「スラム街の少年に対する差別と偏見が有罪だという先入観を作り出した」「多人数による陪審制度は偏見を克服する有効な手段だ」というところへ話し合いの結論を誘導したがっているようだった。実際、生徒の多数もそれに沿った感想を述べたのだった。
でも私はこれに反対だった。この場合、証言の矛盾に気づくことのできる頭のいい陪審員がいて、しかもその人が周囲の圧力に抗して多数意見に反論する勇気を持っていたからよかった。普通ならこの少年は偏見によって有罪とされ、死刑になっていただろう。多数意見やマスコミに流されやすい日本の場合は特に危険だ。だから私は陪審員制度に反対すべきだと心に決めたのだった。
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