栗本英世さん(2)
栗本さんがカンボジアに入った1990年代の中頃は、ポルポト政権が崩壊してまだ間もない頃だった。この政権は都会の住民をすべて田舎へ強制移住させ、国民800万人のうち200万人を虐殺したというとんでもない政権で、カンボジアではまだその傷跡が生々しかった。だから知人の誘いでカンボジアに入った栗本さんも、最初は出会う人がことごとく殺人者に見えて、恐怖心のあまり2時間ほどで国外へ逃げ出したという。
しかし、カンボジアを見捨てるわけにはいかなかった。街にも村にも両親を亡くした孤児があふれていて、そんなこどもたちは人身売買の餌食になっていた。男の子なら売り飛ばされて重労働をさせられたり、犯罪組織の手先として使われたりする、女の子なら売春婦にさせられるのである。そこで栗本さんは孤児を引き取って一時的に預かり、祖父母を捜してそのもとに返すという活動を始めた。「カンボジアこどもの家」である。
そして、人身売買をなくすためには教育が大切ということで栗本さんは学校建設に乗り出した。村人たちと協力してその地域の地雷を撤去し、木の根を掘り起こして、人力だけで学校を建てるのである。中にはポルポト兵として地雷を埋めた人も混ざっていた。重機などは使わないので時間はかかるし、大変な労力を要するが、村人たちに「自分達の学校」という愛着も生まれたし、必要なら自分達で修理、造築できるという利点もあった。
栗本さんは土地の人たちから「オカさん」と呼ばれたそうだ。オカというのは「チャンス」という意味である。生きる、そして育つ主人公はその土地の親やこどもたち。そして、彼らにそのようなチャンスをもたらすのが栗本さんだったのである。
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