2023/01/26

                                              最後の犬 



 コロナの影響もあって最近はペットブームだそうで、テレビでもYouTubeでもかわいい犬や猫の動画をたくさん見ることができる。そんな映像を見るたびに、私にもペットがいればいいのにとうらやましく思うこともあるけれど、もう私がペットを飼うことはない。

 私は約30年前から15年間、ムーという犬を飼っていた。忙しい時でも夜遅くなった時でも、私はほぼ毎日散歩に連れて行き、それが私にとっては心休まる時間だった。そしてムーも私によくなついていた。ところが、そのムーも15年前に亡くなった。その後、私が寂しい思いをしていたのは言うまでもない。

 そして10年前、私が退職した時、私のこどもたちが退職記念に子犬を贈ろうと言ってくれた。私は喜んでホイホイとその申し出に乗ろうとした。ところが私の妻が「犬は15年以上は生きる。15年後、あなたは80才近い。それまであなたが元気で犬の世話をできると言い切れるか。それができないなら犬を飼うべきではない」と言ったのである。私はそんな妻に腹を立てて口論にもなったが、妻の言うことが正論だということは分かっていたので、結局、犬を飼うのはあきらめた。

 そのときは残念だった。でも、時が経つにしたがってあのと
き犬を飼わなくてよかったと思うようになった。もし、新しい犬を飼っていれば、私はその犬に夢中になってムーのことを忘れてしまったかもしれない。そうすればムーに寂しい思いをさせただろう。昔、「みちのくひとり旅」という歌に「どんなに遠くに離れていても、お前が俺には最後の女」という歌詞があったが、私にとってはムーが「最後の犬」なのだ。実際そうだし、そうでなければならないとも思っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿

                                 12月の記事 あげる・してあげる  …  今や、「あげる」は謙譲語ではない    オランダの冬     …  オランダの飢餓で生じた肥満体質は遺伝したという ほうれい線      …  女性たちよ、ほうれい線を気に...