マークⅡ
日本のフォークソングの中心人物だった吉田拓郎が昨年引退宣言をした。彼は私より3才年上だが、ほぼ同じ時代を生きる人として、いつも私の気になる存在だった。その吉田拓郎の初期の曲に「マークⅡ」がある。
「さよならが言えないでどこまでも歩いたね、街灯りさえ消えて足音が寂しいよ」で始まるこの曲は、何かの事情で別れなければならない恋人同士の、痛切な思いを歌った歌である。「分かってくれるただ一人の君を離したくないのに冷たいこの世界」という歌詞もある。この曲にはいくつかのバージョンがあるが、吉田拓郎が泣き出しそうな声で歌っているライブ盤が、私は好きだ。
この当時、別れを歌った曲はいくらでもあった。しかし、この曲には「また会う時は大人になっているだろう」という歌詞があって、私はこの部分に注目したのだった。若い2人は同じ価値観、同じ感性を共有して愛し合っている。いわば、世間を知らないがゆえの純粋な愛だ。しかし、今別れれば2人は別々の経験をしながら生きてゆき、別々の感性を身につけていくことになる。だから再び会うことがあったとしても、今と同じように互いを分かり合うことができるという保証はない。すれ違いになるかもしれないのだ。この歌には人間がこの世で生きていくということへの底知れぬ不安のような感覚も込められている。私はそれに惹かれたのだった。
この歌には、さらに「年老いた男が川面を見つめて時の流れを知る日が来るだろうか」という歌詞もある。吉田拓郎は恋多き人でもあったが、実際に川面を見つめて時の流れを感じることもあったのだろうか。当時はまだ見ぬ未来だったものが、今では過ぎ去った過去になっている。それを思うと心の空洞を見るような思いがする。
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