肉薄か肉迫か
たまたま見たテレビで、アナウンサーが失敗談を話していた。その中の一人は「肉薄」ということばを「にくうす」と読んで笑われたことがあったという。もちろん正しい読み方は「にくはく」で、放送原稿の流れからすれば「にくうす」と読むはずはなく、お粗末な話ではあるが、たとえばこれが熟語の読みを問われた時ならば、私もおそらく「にくうす」と答えるだろう。なぜなら、何かの近くに迫るという意味で「にくはく」という場合、私は必ず「肉迫」と書くからだ。
辞書で調べてみたら「肉薄」も「肉迫」も書き方としては正しいのだそうだ。しかし私の知る限り「薄」という漢字は「薄い」という形容詞的な意味だから、動作を表すことばとして使う場合、「肉薄」は不適切だと思う。それに対して「迫」は文字通り「迫る」という動詞だから「肉迫」にはぐいぐいと迫っていくというダイナミックなイメージがある。私の勝手な解釈だが、「にくはく」の本来の漢字は「肉迫」で、「肉薄」は誰かが間違って書いたのが定着したのではなかろうか。一方、「肉薄」を「にくうす」と読めば、たとえば「肉薄の水道管」のように、ものの厚み(肉)が薄いという意味で普段からよく使う日本語になるのである。
ところで、このことを考えていて、もう一つ、よく似た例を思い出した。それはもう50年くらい前「007危機一髪」という映画がヒットした時のことだ。そのとき、何人かの若者が間違えて「危機一発」と書いたのを、ある有名な学者が指摘して「最近の若者は漢字力が低下している」と嘆いて見せたのだ。私はそのとき、「危機一発の方が絶対よい」と思った。「一発」の方が危険が現実化するダイナミックなイメージが出るからだ。
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