千代女のウソ
加賀千代女という女流俳人の句に「朝顔につるべ取られてもらい水」という句があるが、実際にはこんなことはあり得ない。これは彼女の実体験を踏まえたものではなく、頭の中で作った句だと思っている。そう感じたのはずいぶん前、私が高校生の頃だった。
こんなことはあり得ないというのはどうしてか。
確かに朝顔の成長は早く、一晩の間につるべに巻き付いてしまうことはあり得る。しかし、つるべに巻き付いた直後なら簡単に外せるから、もらい水をする必要はない。いや、それ以前に、伸びてきた朝顔のツルがつるべに届きそうになったら、ツルを他のところへ誘導してやるのが普通だろう。それに、この日もらい水をしたとすれば、それ以後、朝顔が枯れてしまう秋までそうし続けなければならない。でもそんなに長い間井戸を使わなければ、他の植物が生えてきたり、ゴミが落ちたりして井戸が荒れてしまうから、普通そんなことはしない。
この句にはそういう生活実感がまるでないのである。加賀千代女は表具屋の娘として生まれたのだそうだが、おそらく裕福な店で、家事などはすべて女中さん任せ、千代女自身は炊事も洗濯もしたことがないのではないだろうか。たぶん、暑い夏に水を飲みたくなった時に自分で井戸から水を汲んだことさえないのだろう。
もちろん、そのこと自体を非難するつもりはない。ただ、それならそれで自分の生活を踏まえた句作をすべきで、いかにも自分が繊細な心遣いができるかのようなウソの句を作ってはいけない。そういう句は生活実感を持っている一般の読者をシラケさせるだけだ。俳句は実体験の感動を表現すべきものであり、単なることば遊びではないというのが私の持論なのである。
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