井戸謙一さん(2)
井戸さんは1954年の生まれで私より年下だが、世代としてはほぼ同じである。その井戸さんの高校時代の憧れはジャーナリストだったという。実は私もジャーナリストに憧れていて、私の憧れの対象は毎日新聞の大森実記者だったが、井戸さんは朝日新聞の本多勝一記者だったそうだ。その結果、私は毎日新聞を受けて一次試験で落ちたが、井戸さんはより直接的に社会正義を実現する道を選んで、司法の世界に入っていった。
当時は学園闘争の時代で、私はそのど真ん中、井戸さんはその退潮期に学生生活を送っている。井戸さんは高校時代に初めてデモに参加し、大学時代は貧困地域に入って住民の生活を支援するセツルメントというサークル活動に参加していたという。そういうことは当時の学生にとっては別に珍しいことではなかったが、そういう学生も大部分は社会に出ると、学生時代の理想や信念を忘れて社会に同化していった。吉田拓郎は「祭りのあと」という歌の中で「もう眠ろう。もう眠ってしまおう。昨日の夢は冗談だったんだと…」と歌っているが、当時はそれが普通だったのだ。
私が井戸さんを評価するのは、そんな風潮の中でも自分の理想や信念を一生持ち続けたという点である。では、なぜそんなことが可能だったのだろうか。上司や組織の指示を絶対とする企業社会ではなく、個人の独立をタテマエとする裁判官の世界にいたことも幸いしたのだろうが、そういう世界にいれば逆に孤立への不安もつのるだろうし、出世を考えれば大勢に順応しようという誘惑も生じるだろう。そういう中でも動じずに初心を貫けたのは、彼の信念は彼自身が実社会に触れつつ自分で作り上げたものだったからだろうと思っている。
核の傘から出よう 井戸謙一さん(1) 井戸謙一さん(2) 夏近し
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