里帰り
「うららかな春の日射しは待ちわびた顔に照りつける。
前のことは洗い流せと、思い出に塗り替える。」
これは私が一番好きなフォークシンガー泉谷しげるの、その中でも一番好きな「里帰り」という曲の冒頭部分である。ものすごくやさしい曲だと思う。今から50年ほど前、新米教師だった私はこの曲の優しさにどれだけ慰められたことだろう。
当時の私は毎日毎日が挫折の連続だった。自分は教師仲間の中の落ちこぼれだと感じて、何度も何度も転職を考えた。仮病を使って仕事を休んだこともある。今から思えば引きこもりの一歩手前だったと思う。そんな私には「前のことを洗い流す」なんて、とうていできることではなかったが、「洗い流せ」と言ってくれる人がいるというだけで、どれだけ救われたことか。
「暖かな日が来れば、また一つ年を取っていく。
忘れたいことは山ほどあるし、忘れたくないことも多い」
辛かったこと、苦しかったこと、惨めだったこと、悔しかったことなど、忘れたいことは山ほどあった。でも、毎日がもしそんなことばかりだったら、生きてゆくことはできない。普段は苦しいことばかりに目を奪われてしまうけれど、冷静になって考えてみると、うれしかったことや感動したことなど、忘れたくないこともたしかにあったのだ。だからこそ、私も生きて来れた。
おそらく泉谷しげるも、そういう経験をしてきたからこんな詩を書けたのだろう。後に私は教室でこの曲をかけて、そんな私の思いを語ったことがある。するとハラハラと涙を流した生徒がいた。それも、40人のクラスで3人も。いいんだよ、泣けばいい。この曲を聞いて泣ける人は私の、そして泉谷しげるの仲間だ。
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