松本修さん(3)
朝日放送で「探偵ナイトスクープ」という番組を企画し、そのプロデュースを手がけた松本さんの最大のヒットは、アホやバカということばの分布調査から柳田國男の「方言周圏論」を実証したことだろう。その内容は新潮文庫の「全国アホバカ分布考」で読むことができる。私はもともと大衆社会の中にこそ歴史の本質を見るべきだと考えていたので、松本さんのこの業績は多いに評価したい。しかし同時に、この本の中には大衆迎合主義的な面も見られるのではないかとも感じているのだ。
それは、アホ・バカに相当する沖縄のことば「フリムン」の語源に関する学説の多くが、これは「気の狂った人」つまり「気違い」という差別語だとしており、それを知った松本さんはショックを受けて、この調査を続ける気力さえもなくしたと書いているところだ。しかし、その後松本さん自身が「フリムン」の語源は「惚れ者」つまり、「頭がボーとなった人」ではないかと気づいて、音韻学的な考察や専門家の話からそれを確信し、差別語が語源でなかったことに安堵したという。
たしかに現在では「気違い」ということばは差別語であり、使うべきでないと私も思うが、歴史的にもそうだろうか。沖縄にはシャーマニズムの歴史があり、「気違い」ということばが異界と交信できる優れた能力の持ち主として尊敬の念をもって使われていたかもしれないと思うのだが、そうした可能性を考えずに現在の感覚で割り切ってもいいものだろうか。それに「気の触れた人」は差別だが、「頭のボーっとした人」が差別でないというのも、わからない。差別を嫌悪するのは当然だが、私には松本さんが放送関係者独特の意識で、一般大衆の反差別感情に迎合していたように思われたのである。
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