2023/03/13

                                      春に浮かれて 



 1年の中で一番好きな季節はいつかと聞かれたら、私は答えに窮するだろう。でも、春が最も好きな季節の一つであることは間違いない。早春も、春爛漫の頃も、晩春もである。十年ほど前に、私が高校教員を退職した時に、一番にしたことはカメラを買うことだった。退職したとは言っても当時はまだ週に三日ほどパートで仕事に出ていたが、休みの日には必ず春の野原へ撮影に出かけたものだ。雨の日も、風の日も、である。

 あれからもう11年が過ぎたが、春を迎えてワクワクする気持ちは変わらない。今日も昼過ぎからカメラを持って車で郊外に出てみた。田園には明るい春の日射しが降り注いで、ちょっと汗ばむくらいの陽気だった。田んぼはすでにあちこちが鋤き起こされて、黒々とした土の色がなまめかしい感じがする。これらの田んぼにはやがて水が張られて、半月もすれば田植えが始まるのだろう。そんな田んぼと隣り合わせに麦が青々と伸びた田んぼもある。これらの田んぼは、5月末に麦刈りが行われて、それから稲の植え付けが行われるのだ。

 そんな田園を走っている時、遠くに黄色い色が見えた。菜の花畑だろうと思って、農道に車を入れてその横まで走ってみると、やはりそうだった。こんな細い道に車を止めてはいけないと思いながらも、私は車を降りて菜の花の間に入り込み、何枚かの写真を撮った。菜の花の間にいると甘い花の蜜の香りがして、まだ私が小さかった頃の記憶が蘇ってきた。そのころはあっちにもこっちにも菜の花畑があって、私はその中でうっとりと時を過ごしたものだ。今日も本当ならもう少しこの中にいたかったのだが、車を農道に放置するわけにも行かず、後ろ髪を引かれる思いで菜の花畑をあとにしたのだった。

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